動き補正機能を備えたブリュアン顕微鏡によるヒト皮膚の生体内における生体力学的特性の測定

Romodina, M.N., Parmar, A., Singh, K. “In vivo measurement of the biomechanical properties of human skin with motion-corrected Brillouin microscopy.” Biomedical Optics Express 2024, 15, 1777-1784. https://doi.org/10.1364/BOE.516032

背景

 ヒトの皮膚における老化過程や、乾癬、強皮症といった様々な病態を詳細に研究する上で、皮膚の生体力学的特性を測定することは極めて重要である 。皮膚の弾力性を調査することは、組織疾患の評価のみならず、化粧品などの有効性を判断する上でも有用な指標となる 。光子と音響量子であるフォノンの散乱相互作用を利用して非接触かつ無標識で試料の粘弾性を評価する手法であるブリュアン分光法は、外部から機械的な変形を加えることなく、ミクロン単位の空間分解能で局所的な縦弾性係数を取得できる有望な技術である 。特に長波長の光源を用いることで、皮膚深部の真皮層まで光を到達させ、深度に応じた弾性プロファイルを構築することが可能となる 。

従来の問題点

 しかし、従来の吸引法や圧痕法、あるいは超音波を用いた手法では空間分解能に限界があり、表皮のような非常に薄い層を個別に解像して測定することが困難である 。また、光干渉断層撮影法を応用して弾性を評価する手法では、皮膚に対して物理的な応力を加える必要があるという課題がある 。さらに、従来のブリュアン顕微鏡を用いた研究は主に体外での測定に限定されており、生体内での測定においては呼吸や心拍に伴う不可避な検体の動きが原因で、測定位置の正確な深度を特定できず、精緻な弾性写像が得られないという重大な問題点がある 。

解決方法と結果

 そこで、本研究ではブリュアン顕微鏡と、近赤外光の干渉を利用して組織内部の断層画像を取得する技術である光干渉断層撮影法(OCT)を組み合わせることにより、検体の動きを補正した深度分解型の生体力学測定を実現し、問題を解決した 。ブリュアン顕微鏡の光源には、Cobolt社製の波長660 nmのCWレーザーを使用し、試料から散乱された光を収集して分光計へ導くことでブリュアン偏移を計測した 。OCTを用いて皮膚表面の位置を高速に追跡することで、動きによる誤差を排除し、計測されたブリュアン偏移を正確な深度に対応付けることに成功した 。手首での測定の結果、表皮において7 GHz付近と9から10 GHz付近の二つの山が確認され、後者は角質層における角質化した細胞の硬さに起因すると考えられる 。一方で真皮のブリュアン偏移は6.8 GHzと低く、表皮よりも剛性が低いことが示された 。本手法は、将来的に皮膚疾患が弾性特性に与える影響を非侵襲的に調査するための強力な道具となる 。

※本要約は、Optica Open Access Publishing Agreement に基づき、作成・公開されています。

論文で使用されたCoboltのレーザー

660nmレーザー
660nmレーザー

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