ヘプタメチンシアニン色素増感剤(IR806)とランタニドアップコンバージョンナノ粒子の相互作用

Liu, H., Kulkarni, A., Kostiv, U., Sandberg, E., Lakshmanan, A., Sotiriou, G. A., Widengren, J. “Interplay between a Heptamethine Cyanine Dye Sensitizer (IR806) and Lanthanide Upconversion Nanoparticles.” Adv. Optical Mater. 2024, 12, 2400987. https://doi.org/10.1002/adom.202400987

背景

 希土類元素を添加したアップコンバージョンナノ粒子(UCNPs)は、低強度の近赤外光励起により短波長の発光を生じる独自の波長変換材料であり、生体撮像、生体検知、薬物送達、光線力学療法など多様な分野で注目を集めている。UCNPsの光吸収能を補う手法として、吸収断面積の大きい有機色素を光捕集用の増感剤として粒子表面に修飾する色素増感法が有効であり、アップコンバージョン発光(UCL)を数桁増強できることが報告されている。代表的な増感色素であるIR806は、ヘプタメチンシアニン骨格を有する近赤外蛍光色素であり、UCNPs表面のYb³⁺イオンへの励起エネルギー移動を介してUCLを増強する。色素からYb³⁺への主要なエネルギー移動機構として、一重項励起状態を経由する経路と三重項状態を経由する経路の二つが提唱されており、その解明が色素増感UCNPsの設計指針を得るうえで重要である。

従来の問題点

 しかし、色素とUCNPsの相互作用に関する光物理学的理解は依然として不十分であり、主要な増感機構について先行研究間で矛盾する結論が導かれていた。その原因の一つは、色素分子内の暗状態(三重項状態や光酸化還元状態など)への遷移を直接観測する有効な手段が欠如しており、増感過程における各電子状態の寄与を定量的に評価することが困難であった点にある。

解決方法と結果

 そこで、本研究では過渡状態(TRAST)励起変調蛍光分光法を中心に、蛍光相関分光法、蛍光寿命測定、分光蛍光・分光光度法を組み合わせた体系的手法を確立し、IR806(II)の光物理過程とUCNPsとの相互作用を解明した。TRAST測定においては、Cobolt社製785 nm半導体レーザー(06-MLD)を励起光源として使用し、音響光学変調器で矩形パルス列を生成して試料を励起した。その結果、IR806(II)のS₁一重項励起状態からYb³⁺への直接的なエネルギー移動が支配的な増感機構であることが同定され、空気飽和条件下では三重項状態を経由する経路の寄与は無視できることが示された。さらに、ナノ粒子表面でIR806(II)が非蛍光性のH会合体を形成し、約100 μs以上の光照射で解離すること、また10〜100 msの長時間照射では光酸化還元暗状態が蓄積してUCL増感効率を低下させることが明らかとなり、色素増感UCNPsには最適な励起パルス幅が存在することが実証された。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。

TRASTに使用された785nmレーザー

785nmレーザー
785nmレーザー

その他の論文要約はCobolt論文検索ページをご覧ください。