バルク成長炭化ケイ素中の寿命限界エミッターのチェックプローブ分光

Liu, H., Kulkarni, A., Kostiv, U., Sandberg, E., Lakshmanan, A., Sotiriou, G. A., Widengren, J. “Interplay between a Heptamethine Cyanine Dye Sensitizer (IR806) and Lanthanide Upconversion Nanoparticles.” Adv. Optical Mater. 2024, 12, 2400987. https://doi.org/10.1002/adom.202400987

背景

 固体中の単一光子エミッターは、量子誤り訂正の基本要素や複数ノードからなる量子ネットワークの実証を可能にしてきたことから、量子技術の有望な基盤として研究が進められている。固体エミッターとは、半導体や絶縁体結晶中の欠陥準位が離散的なエネルギー状態をもち、単一の光子を放出する発光中心である。複数のエミッターをコヒーレントなスピン光学界面を介して接続する用途では、狭く安定した光学遷移が必要である。本研究が対象とする炭化ケイ素中のk格子位置のシリコン空孔(V2中心)は、こうした量子ネットワーク向けの次世代候補とされる発光中心である。市販のバルク成長炭化ケイ素は大面積で安価に入手できる材料であり、これを量子技術に利用できれば応用展開上の利点が大きい。

従来の問題点

 しかし、バルク材料中や表面の電荷不純物の揺らぎに起因するスペクトル拡散は、シュタルク効果を介して光学遷移周波数を変動させ、特にナノ構造に組み込んだ場合に深刻な課題となる。さらに、エミッターを観測・操作するためのレーザー照射自体がこの拡散を増悪させる。従来の測定手法は、連続的なレーザー照射によって系を大きく乱すため、異なる照射条件下での遷移線幅と拡散速度を明確に決定することが困難であった。

解決方法と結果

 そこで本研究では、繰り返しレーザー照射時間を拡散時間より十分短く抑える高帯域の「チェックプローブ」分光法を導入することで解決した。電荷状態の再初期化を担うリポンプレーザーには、Cobolt社製785nmレーザーを用い、V2中心とその環境の電荷状態を撹乱する目的で使用した。本手法により、レーザー照射下では毎秒ギガヘルツ規模の強いスペクトル拡散がある一方、暗状態では遷移が1秒以上安定して保持され、約36 MHzの狭い均一線幅をもつことを定量的に示した。さらにランダウ・ツェナー・シュテュッケルベルク干渉の観測から、光コヒーレンス時間をT2 = 16.4(4) nsと決定し、これがほぼ寿命限界に達することを明らかにした。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。

分光に使用された785nmレーザー

785nmレーザー
785nmレーザー

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