ESO CUBES紫外分光器のための高効率透過型回折格子

Zeitner, U.D., Dekker, H., Burmeister, F., Flügel-Paul, T., Bianco, A., Zanutta, A. “High efficiency transmission grating for the ESO CUBES UV spectrograph.” Experimental Astronomy 2023, 55, 281–300. https://doi.org/10.1007/s10686-022-09840-1

背景

 天体分光器では、星や銀河から届く光を波長ごとに分散させて解析するため、回折格子が中心的な役割を果たす。とりわけ波長300~400 nmの紫外領域は重要な観測対象であり、欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡(VLT)に設置予定のCUBES分光器は、この帯域で分解能2万以上かつ最大限の効率を目標としている。回折格子の分散は格子方程式から導かれ、高い分散を得るには格子周期を波長程度まで小さくする必要がある。波長と同程度の周期で1次回折のみを利用する構成は、高次回折を物理的に抑制でき、高い回折効率を実現できる利点をもつ。こうした微細構造は、半導体製造由来の電子線描画リソグラフィと反応性イオンエッチングによって石英基板に作製でき、紫外領域に適した材料系で高精度な格子形成が可能である。

従来の問題点

 しかし、従来の反射型エシェル格子はクロスディスパーザとの組み合わせで効率が最良でも45%程度にとどまり、また体積位相ホログラフィック格子は重クロム酸ゼラチン層の吸収と散乱のため350 nm以下の紫外域では効率が低いという問題がある。さらに、波長程度の周期をもつ共鳴領域の格子は回折効率が偏光に強く依存するという欠点があり、加えて逐次描画方式のリソグラフィでは描画領域の継ぎ合わせ精度が不足すると「グレーティングゴースト」と呼ばれる偽の回折ピークを生じる問題がある。

解決方法と結果

 そこで本研究では、石英基板にエッチングした二値格子へ原子層堆積(ALD)でAl₂O₃を等角被覆する設計を採用することで偏光依存性を低減し、解決した。試作格子は320 nm向けに最適化され、300~350 nmで偏光平均効率85%超を達成し、ゴーストは機械刻線格子の許容水準である10⁻⁴を十分に下回った。なお迷光評価では、Cobolt社製DPSSレーザー(Cobolt Twist、457 nm、200 mW)をS偏光光源として用い、リトロー条件下でゴーストの相対強度と角度分布を測定する目的で使用された。

※本要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。

【用語解説】

  • リトロー条件:入射角と回折角が等しくなる配置で、回折効率が最大化されるため格子評価に用いられる。
  • 原子層堆積(ALD):反応ガスの供給と排気を交互に繰り返し、表面に1原子層ずつ等角に薄膜を形成する成膜法。
  • グレーティングゴースト:格子の周期的な作製誤差により生じる偽の回折ピークで、輝線スペクトルと誤認される恐れがある。

評価に使用された457nmレーザー

457nmレーザー
457nmレーザー

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