Kistwal, T., Kanhaiya, K., Buchmann, A., Ma, C., Nikolić, J., Ackermann, J., Galonska, P., Nalige, S. S., Sardari, V., Sudarsan, A., Havenith, M., Sulpizi, M., Kruss, S. “Light-induced quantum friction of carbon nanotubes in water.” Nature 2026. https://doi.org/10.1038/s41586-026-10632-2
固体中の電子と液体との間で直接運動量が移動する現象は量子摩擦と呼ばれ、グラフェンやカーボンナノチューブの電子モードと溶媒の集団運動モードとの非断熱的な結合として理論的に提唱されてきた。半導体的な単層カーボンナノチューブは近赤外で発光する一次元材料であり、その発光は軸方向に約100 nm動く電子・正孔対(励起子)で説明される。これらの光電子物性は周囲の化学環境に敏感であり、生体センサー素子として有望である。よって励起子が水中での拡散や摩擦に与える影響を解明する意義は大きい。
しかし、量子摩擦は微視的な現象であるため直接観測が難しく、これまでは水・炭素界面における摩擦異常やグラフェン中の高温電子の急速な冷却といった間接的な証拠にとどまり、励起子そのものがナノ物体の拡散を制御するか否かは未解明であった。
そこで本研究では、近赤外蛍光相関分光により励起光強度を上げると拡散定数が約50%直線的に低下することを示し、量子欠陥で励起子を局在化させると効果が消えること、蛍光量子収率を変える分子で拡散が約2倍変化することを確かめた。テラヘルツ分光では励起子と水の直接結合に対応する約30 cm⁻¹の応答を捉え、分子動力学計算は揺らぐ励起子双極子が摩擦を生むことを支持した。これにより励起子と水との光誘起量子摩擦が実証された。なお1 µm以上の運動を直接追跡する広視野顕微鏡観察では、Cobolt社製561 nmレーザー(Cobolt Jive 500、200 mW)で個々のナノチューブを励起・追跡し、光照射で拡散が遅くなることを確認した。
※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいており、査読前論文です
【用語解説】
・励起子:光吸収で生じる電子と正孔の束縛対。単層カーボンナノチューブでは軸方向に拡散し、近赤外発光の起源となる。
・蛍光相関分光(FCS):微小な観察体積を通過する蛍光体の強度ゆらぎの自己相関から、拡散の速さ(拡散定数)を求める手法。
・量子欠陥:sp²炭素格子に少数のσ結合(sp³)を導入したもので、励起子を捕捉・局在させ、新たな発光特性を生み出す。
使用された561nmレーザー

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