共振器で増強した固体量子センサを大面積で作る簡便な手法

Tibben, D.J., Styles, R., Broadway, D.A., Tetienne, J.-P., Gómez, D.E., Reineck, P. “A Scalable Method for Cavity-Enhanced Solid-State Quantum Sensors.” Advanced Science 2026, 13, e17593. https://doi.org/10.1002/advs.202517593

背景

 ダイヤモンド中の窒素空孔(NV)中心は、光を当てるだけで電子スピンの状態を読み出せる発光欠陥であり、室温で磁場を高感度に計測できることから、量子技術のなかで最も実用に近い存在として研究が進められている。計測の多くはバルクの単結晶ダイヤモンドを使うが、粒子状の蛍光ナノダイヤモンド(FND)であれば他の材料へ自在に組み込めるため、大面積の素子や現場即時計測のような用途への展開が期待される。近年は六方晶窒化ホウ素(hBN)中のスピン欠陥も、ナノスケール計測の材料として注目されている。

従来の問題点

 しかし、ダイヤモンドは硬く脆いうえ高価で、入手できる量子ダイヤモンドチップは4 mm程度までであり、大面積・高処理量の用途に向かない。FNDはバルクに比べて発光が暗く、スピンの位相がそろう時間も短いため感度が伸びず、hBNのホウ素空孔中心も発光が非常に暗い。光共振器のパーセル効果で発光を増強する試みは各種の共振器で検討されてきたが、ナノスケールの量子センサを内部に含む薄膜共振器を、簡便かつ大面積に作る手法は報告されていなかった。

結果

 そこで本研究では、薄膜を順に積むだけで作れる平面ファブリ・ペロー微小共振器に量子センサを埋め込むことで解決した。銀100 nmを蒸着して下側の鏡とし、センサを分散させた高分子膜(FNDにはPVP、hBNにはPMMA)を回転塗布し、銀25 nmを重ねて共振器を完成させる。高分子層の厚みを変えるだけでFNDのNV発光ピークを600〜730 nmの範囲で調整でき、共振器内では発光スペクトルが狭まってNV⁻の発光が選択的に増強された。NV発光寿命は最大3分の1に短縮し、パーセル効果によって放射遷移の速度が上がったことを示す。量子センシングの実証にはAdámas Nanotechnologies社製の20 nmおよび100 nmの蛍光ナノダイヤモンドを用いて素子を作製し、発光が暗い20 nm品でも増強が働くかを調べた。光検出磁気共鳴(ODMR)の信号の深さは2.8倍(20 nm)・2.2倍(100 nm)に増え、磁場感度は20 nm品で4.8倍改善した。hBN粒子では発光が明るくなり、減衰速度が最大13倍に増えた。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • NV中心(窒素空孔中心):ダイヤモンド結晶中で炭素原子が窒素原子に置き換わり、その隣が原子空孔になった欠陥。電子スピンの状態が発光の明るさに現れるため、光だけで読み出せる。
  • パーセル効果:発光体を微小な共振器の中に置くと、光を放出できる状態の数が変わり、自然放出の速度が変化する現象。発光寿命の短縮として観測される。
  • ODMR(光検出磁気共鳴):マイクロ波の周波数を掃引しながら発光強度を測り、スピン共鳴を発光の落ち込みとして検出する手法。落ち込みの位置から磁場の大きさを求める。