Alkahtani, M.H., Alzahrani, Y.A., Hazrathosseini, A., Alessa, A.M., Sow, M., Alromaeh, A., Alghihab, A.A., Alghannam, F.S., Jelezko, F., Hemmer, P.R. “Advanced post-treatment strategy for quantum-grade fluorescent nanodiamonds.” Front. Quantum Sci. Technol. 2025, 4, 1687810. https://doi.org/10.3389/frqst.2025.1687810
ダイヤモンド結晶中で窒素原子と隣り合う原子空孔が対をなした発光性の点欠陥である窒素空孔中心(NV中心)は、外部の磁場や温度に応じて蛍光や磁気共鳴の信号が変化するため、室温で動く固体量子センサや生体の蛍光標識として注目されている。とくに微小な蛍光ナノダイヤモンドは、細胞内に取り込ませたり微細な試料に配置したりできることから、量子計測と生体観察の双方で急速に研究が進められている。その性能は、NV中心の近さと表面の清浄さに強く左右される。
しかし、ナノダイヤモンドは高圧高温法で合成し粉砕して作る過程で、ダイヤ以外の非晶質炭素や黒鉛質の殻、金属や金属酸化物の残渣、凝集した破片を必然的に多く含む。これら表面の不純物はNV中心の発光や電荷状態を乱す消光源として働き、明るさや光安定性、スピンの緩和時間を低下させる問題がある。加えて、市販品は分散剤で安定化されているため、洗浄すると凝集しやすく、分散安定性も損なわれやすい。
そこで、本研究では溶融した硝酸カリウムによる熱酸化と、酸・アルカリによる逐次洗浄を組み合わせた多段階の表面処理で解決した。出発材料にはAdámas Nanotechnologies社製の粒径約100 nmの高圧高温蛍光ナノダイヤモンドを用い、580℃の溶融硝酸カリウムで部分酸化したのち、硫酸・硝酸、水酸化ナトリウム、塩酸で洗浄して黒鉛質の残渣や金属イオンを除き、表面電荷を中和した。その結果、スピン格子緩和時間は未処理の約1045マイクロ秒から約2045マイクロ秒へ延び、光検出磁気共鳴の信号強度は約11.5%に達した。粒子径は約100 nm、ゼータ電位は−30 mVとなり、良好な分散安定性を示した。以上より、背景光が少なく清浄な量子グレードの蛍光ナノダイヤモンドが得られた。
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。
【用語解説】
- 光検出磁気共鳴(ODMR):NV中心のスピン状態をマイクロ波で操作し、その変化を蛍光の増減として光で読み取る手法。信号のコントラストが大きいほど計測感度が高い。
- スピン格子緩和時間(T1):励起したスピンが周囲との相互作用で熱平衡状態へ戻るまでの時間。長いほどスピンの情報が保たれ、量子センサとしての感度が高まる。
- ゼータ電位:微粒子表面の実効的な電荷を表す指標。絶対値が大きいほど粒子どうしが反発して凝集しにくく、分散液の安定性が高い。
