単一粒子の化学分析が明かす、有機物に富む爆轟すすの正体

Farley, R.N., Lee, J.E., Huber, R.C., Stricklin, M.A., Wurth, K.N., Aiken, A.C. “Single-particle chemical analysis reveals organic-rich detonation soot products.” Communications Chemistry 2026, 9, 77. https://doi.org/10.1038/s42004-025-01879-3

背景

 高性能爆薬の爆轟は、極端な高温高圧のもとで多様な微粒子(PM)を生じ、その組成は爆薬の種類や製造法を推定する法科学的な手がかりや、すすの生成過程を理解するうえで重要であることから研究が進められている。爆轟すすに含まれる炭素は同素体が多彩で、炭素がダイヤモンド構造に凝集した爆轟ナノダイヤモンド(DND)、グラファイト、球殻状の炭素オニオン、フラーレン様構造などが知られ、とくにDNDは研磨剤や潤滑添加剤としての工業利用の観点から詳しく調べられてきた。個々の粒子ごとに化学組成を測る手法として、粒子をレーザーで加熱蒸発させて質量分析するすす粒子エアロゾル質量分析(SP-AMS)や、走査電子顕微鏡とエネルギー分散X線分光を組み合わせたSEM-EDSが用いられる。

従来の問題点

 しかし、従来の研究は黒色炭素(無機炭素)の構造解明に偏り、粒子集団の平均的な性質や表面像の観察が中心であった。個々の粒子の化学的な混合状態や、揮発しにくい有機成分、炭素粒子への金属の取り込みはほとんど調べられておらず、有機成分は酸処理や真空下での分析で失われやすいため見落とされてきた。

結果

 そこで本研究では、TNT40%とRDX60%からなる軍用爆薬Composition Bを、樹脂(PMMA)による閉じ込めの有無や定常・過駆動といった条件を変えて爆轟させ、乾式分散でエアロゾル化した粒子をSP-AMSとSEM-EDSで単一粒子レベルまで分析することで解決した。PM2.5質量の50.5〜71.4%が黒色炭素、22.5〜43.4%が難揮発性の有機炭素であり、これまで見過ごされてきた有機成分が主要構成要素であると判明した。閉じ込め実験では多環芳香族炭化水素に富む粒子が現れ、アルミニウム・カリウム・ナトリウムなどの金属が炭素粒子に内部混合していることをSEM-EDSで確認し、観測できる粒径範囲を100 µmまで広げた。ここで黒色炭素が質量スペクトル上でどう断片化するかを較正するため、市販の参照標準試料としてAdámas Nanotechnologies社製の爆轟ナノダイヤモンド(製品番号DND2)を用い、グラファイト粉末やフラーレンすす等と断片化パターンを比較した。DND標準は大きな炭素クラスターの寄与が小さいという固有の挙動を示し、爆轟すす中のナノダイヤ成分を識別する基準を与えた。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • 爆轟ナノダイヤモンド(DND):爆薬の爆轟時の高温高圧下で炭素が凝集してできる、直径およそ4〜8 nmの微小なダイヤモンド粒子。研磨剤や潤滑添加剤などに利用される。
  • SP-AMS(すす粒子エアロゾル質量分析):レーザーで黒色炭素の粒子を加熱蒸発させ、生じた原子や分子の断片を質量分析する装置。1粒子ごとに有機物・金属・黒色炭素を同時に測れる。
  • Composition B:TNTとRDXを混ぜた軍用爆薬。酸素が不足気味の組成のため、爆轟時に多量のすす(微粒子)を発生する。