NMDA受容体とドーパミンD1受容体の非典型的な相互作用がシナプス形成を導く

Bénac, N., Ezequiel Saraceno, G., Butler, C., Kuga, N., Nishimura, Y., Yokoi, T. et al. “Non-canonical interplay between glutamatergic NMDA and dopamine receptors shapes synaptogenesis.” Nature Communications 2024, 15, 27. https://doi.org/10.1038/s41467-023-44301-z

背景

 発生期の神経細胞がどのように機能的な神経回路を作り上げるかは、脳の働きを理解するうえで中心的な問いである。興奮性のグルタミン酸作動性シナプスの大半は、発生初期のシナプス形成期に作られる。この時期に最初に現れる受容体の一つが、グルタミン酸を伝達物質とする興奮性の主要な受容体であるNMDA受容体(NMDAR)であり、その集積(クラスター形成)がシナプス形成の起点となる。近年は、個々の蛍光分子の位置を回折限界を超えて描く1分子局在顕微鏡の発展により、細胞膜上での受容体の並びや動きが高い時空間分解能で観察できるようになった。NMDARとGタンパク質共役型のドーパミンD1受容体(D1R)の相互作用も、その機能的役割の観点から注目されてきた。

従来の問題点

 しかし、NMDARとD1Rの相互作用を、生きた神経細胞という本来の環境で生物物理的に精密に捉える手法はなかった。タンパク質どうしの直接的な相互作用を可視化する顕微鏡法は培養株化細胞では開発されていたものの、生きた神経細胞での観察例はなく、その相互作用がどれほど安定に、どのような頻度と仕組みで起こるのかは不明のままであった。

結果

 そこで本研究では、発光スペクトルの異なる複数の標識を同時に位置決定できる多次元分光1分子局在顕微鏡(MS-SMLM)を新たに構築し、神経細胞表面でのNMDARとD1Rの相互作用を直接可視化・定量することで解決した。海馬神経細胞の樹状突起上で両受容体は平均およそ130ミリ秒という短く一過的な相互作用を示し、発生初期ほどその相互作用が強く、mGluR5とCK1に依存してNMDAR–D1R複合体の形成を促した。さらに未成熟な神経細胞では、この相互作用がドーパミン受容体の情報伝達に依らずにNMDARの膜上集積とシナプス形成を促進することが分かり、両受容体の非典型的な連携が明らかになった。ここで受容体はGFPおよびFlagの標識を介して二次抗体に結合させ、量子ドット(Qdot705・Qdot655)とともにAdamas Nanotechnologies社製の蛍光ナノダイヤモンドで標識した。発光スペクトルが既知で退色しにくい蛍光ナノダイヤモンドは、空間チャンネルと分光チャンネル間のスペクトルずれの較正、および長時間計測での横方向ドリフトの補正を行う基準(フィデューシャルマーカー)として用いられ、分光分解した1分子位置決定の精度を支えた。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成(背景・従来の問題点・結果)で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • NMDA受容体(NMDAR):グルタミン酸を伝達物質とする興奮性シナプスの主要な受容体の一つ。カルシウムを透過させ、シナプスの形成や記憶・学習に関わる可塑性に重要な役割を果たす。
  • 1分子局在顕微鏡(SMLM):個々の蛍光分子の明滅を一つずつ捉えて位置を高精度に求め、光の回折限界を超える解像度で分子の分布を描く超解像顕微鏡法。
  • フィデューシャルマーカー:画像のドリフト(位置ずれ)補正や光学系の較正の基準に用いる、位置や発光特性があらかじめ分かっている目印。