細胞小器官の内部まで描き出す、糖鎖修飾のナノスケール地図

Schroeter, H.G., Sass, S., Heilemann, M., Kuner, T., Klevanski, M. “Nanoscale Mapping of the Subcellular Glycosylation Landscape.” Advanced Science 2026, 13, e06731. https://doi.org/10.1002/advs.202506731

背景

 タンパク質や脂質に糖鎖が付く糖鎖修飾は、その機能を細かく調節する主要な翻訳後修飾で、哺乳類がもつ糖鎖の多様性はタンパク質の種類を上回る。糖鎖は細胞間の接着や情報伝達、神経系ではシナプスの形成や伝達の調節に関わり、その異常は遺伝性疾患の神経症状やがんの悪性化にも結び付く。糖鎖は小胞体やゴルジ体で合成・加工されるため、その内部での配置を知ることは糖鎖制御の理解に直結する。観察には、糖鎖に結合するタンパク質であるレクチンの蛍光標識が用いられてきた。

従来の問題点

 しかし、通常の光学顕微鏡は回折限界のため200 nm程度より細かい構造を分離できず、細胞小器官の内部にある糖鎖の並びは捉えられない。超解像顕微鏡を用いた報告も細胞表面の糖衣に偏り、細胞内部はほとんど手つかずであった。加えて、多数の標的を順に撮影する多重計測では撮影ごとに試料位置がずれるため、像を重ね合わせる基準が要る。

結果

 そこで本研究では、レクチンを用いた三次元dSTORMを多重計測向けに最適化した「Glyco-STORM」を構築して解決した。17種類のレクチンを骨肉腫由来細胞・海馬神経細胞・脳組織切片で選別し、抗体と併用できる緩衝液に整え、ロボットによる溶液交換で多数の標識を順次撮影した。位置合わせの基準点にはAdámas Nanotechnologies社製の100 nm蛍光ナノダイヤモンド(NDNV100nmHi)を用い、被覆したガラス底皿にアミド結合で固定して視野あたり5〜10個置き、退色しない発光から撮影ごとの位置ずれを補正した。その結果、小胞体では高マンノース型糖鎖が折り畳み酵素PDIとは別の小領域に偏り、ゴルジ体ではシスからトランスへの層状配置と面内の不均一が判明した。シナプスでは活性帯やシナプス後肥厚に糖鎖が濃縮していた。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • dSTORM(直接確率的光学再構成顕微鏡):蛍光色素を1分子ずつ点滅させ、その中心位置を高い精度で求めて積み上げることで、回折限界を超えた20 nm程度の分解能を得る超解像顕微鏡法。
  • レクチン:特定の糖鎖構造に選択的に結合するタンパク質の総称。抗体と違い糖鎖そのものを認識するため、糖鎖の分布を調べる標識として使われる。
  • 基準点粒子(フィデューシャルマーカー):像の位置合わせに使う目印の粒子。退色せず明るく光る粒子を試料に固定し、撮影ごとの試料の移動量を測って像のずれを打ち消す。