Rajpal, S., Guo, Q., McCullian, B.A., Berry, T., Ahmed, Z. “A Kalman Filter Based Approach to NV Diamond Data Fusion For Improved Temperature Sensing.” arXiv preprint arXiv:2607.22410, 2026(プレプリント/査読前). https://arxiv.org/abs/2607.22410
温度計測は工業プロセス制御から生体研究まで支える基盤技術であり、量子技術の進展に伴って小型かつ高確度な手法が求められている。ダイヤモンド中の窒素原子と空孔が対になった欠陥である窒素空孔中心(NV中心)は、電子スピンの共鳴周波数が温度とともに系統的に変化するため、高感度な温度計測素子として注目されている。計測方式は大きく二つある。マイクロ波を掃引して共鳴周波数を読む光検出磁気共鳴(ODMR)は、量子力学の理論式でスペクトル形状を記述できるため、長時間にわたって基準がずれにくい。蛍光スペクトルの形の変化から温度を求める全光学方式は、機械学習模型と組み合わせることで1ミリ秒の時間分解能と数十ミリケルビン級の不確かさを両立できる。
しかし、ODMR方式は1回の測定と解析に数百秒から数十分を要するため応答が遅く、全光学方式は物理模型に基づく補正が難しいため、長時間の運用では系統的なずれが蓄積して確度が落ちるという問題がある。
そこで本研究では、両方式の推定値をカルマンフィルタで融合することによって解決した。温度は測定間隔に比べてゆっくり変化する隠れ変数とみなし、全光学方式の推定値を逐次取り込んで平滑化する。加えて、時折得られるODMR推定値でフィルタの状態と不確かさを初期化し直す「ホットスタート」を導入し、長時間側の基準として働かせた。15.0〜45.0 ℃で検証した結果、二乗平均平方根誤差は単独方式に比べて57 %低減し(0.94 ℃から0.54 ℃)、外れ値の除去と系統的なずれの補正が効いた。センサ素子には、Adámas Nanotechnologies社製の直径約150 µm・NV中心濃度約3.5 ppmのダイヤモンド粒子が用いられ、紫外線硬化樹脂で光ファイバ束の先端に接着することで、全光学方式とODMRの双方に共通の信号源として機能した。
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。
【用語解説】
- 光検出磁気共鳴(ODMR):マイクロ波を当てながら蛍光の強さの変化を測り、電子スピンの共鳴周波数を光で読み取る手法。NV中心では共鳴周波数が温度や磁場に応じて変化する。
- カルマンフィルタ:時間とともに変化する量を、予測値と観測値をそれぞれの誤差の大きさに応じて重み付けしながら逐次推定する手法。観測のたびに推定値と不確かさを更新する。
- 二乗平均平方根誤差(RMSE):推定値と真の値の差を二乗して平均し、平方根をとった指標。値が小さいほど推定が正確であることを示す。
