ミトコンドリアに化学結合させたダイヤモンド温度計が捉えた、局所的な発熱

Romshin, A.M., Kruglov, A.G., Nikiforova, A.B., Zhivopistsev, A.A., Bagramov, R.H., Korepanov, V.I., Pasternak, D.G., Shlyapnikov, Y.M., Valitov, T.M., Filonenko, V.P., Vlasov, I.I. “Chemically Anchored Diamond with H3 Centers for Ratiometric Measurement of Isolated Mitochondria Temperature.” Int. J. Mol. Sci. 2025, 26, 11395. https://doi.org/10.3390/ijms262311395

背景

 ミトコンドリアは細胞にATPを供給するとともに、呼吸鎖で放出されるエネルギーの4〜6割を熱として散逸させる、細胞内の主要な発熱器官である。近年、細胞内に温度の勾配が存在し、温度そのものが情報を伝える「熱シグナル」として働く可能性が示され、細胞小器官の局所温度を測る技術への関心が高まっている。温度で発光が変わる色素や蛍光タンパク質も使われてきたが、格子欠陥である色中心を含むダイヤモンド微粒子は、発光がpHや粘度、イオン強度に左右されず退色も起きないため、超局所の温度計として有望である。

従来の問題点

 しかし、粒子を懸濁して使う方式には、温度計と発熱源であるミトコンドリアの接触が安定しないという問題がある。両者の間に残る水の層が熱の逃げ道となって熱抵抗が増し、測定値は本来の温度より低く平均化される。粒子も細胞小器官も拡散運動するため読み取り値は揺らぎ、著者らが以前にシリコン空孔中心を持つ微小ダイヤで得た値も大きくばらついていた。

結果

 そこで、本研究ではダイヤモンド表面を化学的に活性化し、ミトコンドリア外膜に共有結合させることで解決した。粒子を酸化して表面に作ったカルボキシ基をEDCとHOBtで活性化し、外膜タンパク質のアミノ基とアミド結合を形成させている。温度は窒素2個と空孔からなるH3中心の発光の、515〜525 nmと585〜610 nmの強度比から求め、水中で1 ℃あたり1.15 %の直線的な感度を得た。脱共役剤や電子伝達の阻害剤を加えると、被覆の度合いに応じて0.5〜10 ℃の局所的な温度上昇が再現性よく記録された。この微小ダイヤは、Adamas Nanotechnologies社製の粒径3〜4 nmの爆轟法ナノダイヤモンドをアダマンタンと混ぜ、高温高圧法で合成したものであり、ナノダイヤに約1 %含まれる窒素がH3中心を作る窒素源となっている。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • H3中心(NVN中心):ダイヤモンド結晶中で2個の窒素原子と1個の原子空孔が隣り合った格子欠陥。青色の光で励起すると緑色に発光し、発光の形が温度で変化するため温度計として使える。
  • 酸化的リン酸化の脱共役:呼吸鎖が内膜の内外に作った水素イオンの濃度差を、ATP合成を経ずに解消させること。取り出せたはずのエネルギーが熱になる。FCCPなどの薬剤で人為的に起こせる。
  • レシオ計測:発光強度そのものではなく、2つの波長帯の強度の比を使う計測方法。粒子の大きさや励起光の強さの違いが打ち消され、値が安定する。