Araujo, G.R., Baudis, L., Bowden, N., Chapman, J., Erickson, A., Guerrero Perez, M., Hecht, A.A., Hedges, S.C., Huber, P., Ivanov, V., Jovanovic, I., Khodaparast, G.A., Magill, B.A., Mateos, J.M., Morrison, M., Smith, N.W.G., Stengel, P., Surani, S., Vladimirov, N., Walkup, K., Wittweg, C., Zhang, X. “Nuclear recoil detection with color centers in bulk lithium fluoride.” The European Physical Journal C 2026, 86, 887. https://doi.org/10.1140/epjc/s10052-026-15920-9
中性子やニュートリノ、暗黒物質の候補といった電気を帯びない粒子は、原子核を弾き飛ばす「原子核反跳」を捉えて検出する。従来の検出器は一瞬だけ現れる発光や電離、格子振動を測るが、反跳が結晶に残す恒久的な構造変化を読み取る方式も提案されている。格子から原子が抜けた欠陥に電子が捕らえられ、発光するようになったものを色中心と呼び、これを蛍光顕微鏡で観察する。フッ化リチウムは格子欠陥そのものが発光するためこの用途に適し、励起は 450 nm 付近、発光は 525 nm と 650 nm と可視域にあり、波長差が大きく発光も強い。
しかし、単一の色中心を捉えた先行研究は共焦点顕微鏡によるダイヤモンドに限られ、観察できる体積は μm 規模にとどまっていた。広視野蛍光顕微鏡でフッ化リチウムの飛跡を捉えた研究も、小さな試料体積に制限されていた。暗黒物質やニュートリノの探索には cm³ 規模で同じ感度が要る。また市販の蛍光飛跡検出器は電荷移動を利用するため電磁放射線にも強く応答し、背景事象を極限まで下げたい用途には使えない。
そこで、本研究では光シート蛍光顕微鏡を用い、cm³ 規模の結晶内部にある色中心の飛跡を三次元で撮像することによって、解決した。公開設計の mesoSPIM に、Cobolt 社製の 445 nm 半導体レーザー(06-MLD、50 mW)を励起光源として組み込んで光シートを形成し、色中心の蛍光を 488 nm 長波長透過フィルタで選び科学用 CMOS カメラで記録した。試料を切り出すことなく、数十 cm³ の結晶を等方的な分解能 約 4 μm、1 cm³ あたり 10 分未満で走査できる。高速中性子による原子核反跳と、リチウム 6 が熱中性子を捕獲して生じるアルファ粒子とトリトンの対の飛跡を捉え、後者では停止直前に明るさが増す特徴的な分布が得られ、計算と一致した。同じ線量ならガンマ線の発光は中性子反跳より 30〜50 倍弱く、蛍光は数か月安定であった。
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。
【用語解説】
- 原子核反跳:電気を帯びない粒子が原子核に衝突し、原子核が弾き飛ばされる現象。電気を帯びない粒子は物質とほとんど相互作用しないため、この反跳が数少ない観測の手がかりとなる。
- 色中心(カラーセンター):結晶格子から原子が抜けた空孔などの欠陥に電子が捕らえられ、特定の波長の光を吸収・発光するようになったもの。フッ化リチウムでは 525 nm と 650 nm の発光が、それぞれ異なる空孔の集まりに由来する。
- 光シート蛍光顕微鏡(LSFM/SPIM):試料を薄い板状の光で横から照らし、その面だけを撮像する手法。照らした面以外は励起されないため褪色が少なく、面を動かしながら積み重ねることで厚い試料の三次元像が得られる。

