赤色感光性の光重合性ガラスによるホログラフィック光学素子の作製

Aftab, J., Naydenova, I., Mikulchyk, T. “Red-Sensitive Photopolymerizable Glass for Fabrication of Holographic Optical Elements.” Advanced Optical Materials 2026, 14, e71428. https://doi.org/10.1002/adom.71428

背景

 ホログラフィック光学素子(HOE)は、感光性材料の薄い層に干渉縞を屈折率の変化として書き込み、回折によってレンズや回折格子として働かせる部品であり、薄く軽く一枚で複数の機能を担えることから、拡張現実表示やセンサー、分光へ向けて研究が進められている。記録材料の一つである光重合性ハイブリッドゾルゲル(PHSG)は、無機の骨格と光重合する有機基が共有結合で結ばれた耐水性の材料で、機械的・熱的な安定性が高く散乱も小さく、100 °C で 45 分と短時間で硬化する。

従来の問題点

 しかし、PHSG の感度は光開始剤の吸収に支配されて青から緑の波長域に限られ、赤色光で記録できる光重合性ガラスは報告がなかった。赤色光は散乱が小さく厚い層の奥まで届き、記録と再生の波長を揃えられるが、光子のエネルギーが低く、結合を直接切る方式では重合が始まりにくい。重合する基がゾルゲル骨格に固定されて動きにくいことや、合成液の強い極性が増感剤を分解させることも壁となる。

結果

 そこで、本研究ではメチレンブルーを増感剤、N-フェニルグリシンを共開始剤とする TypeII 光開始系を導入することによって、解決した。色素濃度 0.016 wt%、色素と共開始剤の比 1:150 を最適条件とし、630〜660 nm で働く赤色感光性の光重合性ガラスを初めて実現している。格子の記録には Cobolt 社製 Bolero の 640 nm レーザーを用い、s 偏光の 2 本のビームを干渉させて体積透過型格子を書き込んだ。空間周波数 300〜2200 本/mm で記録でき、回折効率は最大 80 %、屈折率変調は最大 1.6 × 10-3、6 か月後の効率低下は約 3 % にとどまる。デジタルマイクロミラー素子で変調した光により、一辺 5 µm の正方ドット配列を層内部に記録し、設計どおりの回折像も再生させている。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • TypeII 光開始系:光を吸収した増感剤が共開始剤との間で電子や水素を受け渡してラジカルを作り、重合を始める方式。結合を直接切る TypeI と違い、光子のエネルギーが小さい長波長の光でも働く。
  • 屈折率変調:記録された格子の一周期の中で屈折率が振れる大きさ。大きいほど薄い層でも高い回折効率が得られる。
  • 体積透過型格子:材料の厚み方向にも縞が刻まれ、光が通り抜ける向きで使う格子。特定の入射角と波長にだけ強く回折する。

ホログラム記録に使用された640 nmレーザー

Cobolt 640nmレーザー
640nmレーザー