稚魚ゼブラフィッシュの脳全体に分布する神経細胞の電位イメージング

Wang, Z., Zhang, J., Symvoulidis, P., Guo, W., Deng, D., Amsterdam, A., Zhang, L., Honda, T., Roche, S., Wilson, M.A., Boyden, E.S. “Voltage imaging of neurons distributed across entire brains of larval zebrafish.” Nature Methods 2026, 23, 1895–1907. https://doi.org/10.1038/s41592-026-03179-7

背景

 体が透明で脳全体を光で観察できる稚魚のゼブラフィッシュは、神経科学の実験動物として広く用いられている。膜電位そのものを蛍光に変換する遺伝子にコードされた電位指示薬(GEVI)の登場により、多数の神経細胞の電位を並列に読み取る道が開かれた。薄い板状の光で試料を横から照らし、その面だけを励起する光シート顕微鏡は、光切断能が高く光毒性も小さく、この目的に適した方式である。

従来の問題点

 しかし、カルシウム指示薬による全脳撮像は時間分解能が数百ミリ秒に留まり、ミリ秒規模で進む活動電位の時刻を捉えられない。電位の撮像には、脳全体を覆う三次元視野、単一細胞を分ける分解能、1個の活動電位を検出する信号忠実度が同時に要るが、一方を最適化すると他方が犠牲になる。単一露光で三次元情報を得るライトフィールド顕微鏡は、厚み約 200 µm を一度に写すと横分解能が約 3 µm へ劣化する。光シート顕微鏡も、軸走査の速度と撮像素子の画素処理量に阻まれ、全脳では毎秒 10〜15 体積に留まっていた。

結果

 そこで、本研究では焦点面を遠隔で走査する光シート顕微鏡を設計することによって、解決した。質量約 0.01 g の銀蒸着鏡を圧電ベンダーで検出光路の共役面で動かし、試料側の約 200 µm を最大 300 Hz で軸走査する。像を刃形の鏡で二分して高速撮像素子2台へ振り分け、6 kHz を超えるこま速度を得た。第二の遠隔焦点装置で直交偏光も回収し、蛍光の収集量を75%高めた。直径 900 µm × 厚さ 200 µm の視野で横方向の半値全幅約 1 µm を保ちつつ、脳体積の約85%を毎秒 200.8 体積で撮像し、1個体あたり1万個以上の神経細胞の電位を記録した。Cobolt 社のレーザー発振器は照明光源として使われ、515 nm 連続波レーザー(Cobolt 06-MLD)の平行光をパウエルレンズで扇状に広げて試料面に幅約 1 mm の光シートを作り、軸方向へ掃引して各断面の指示薬を励起した。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成(背景・従来の問題点・結果)で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • 遺伝子にコードされた電位指示薬(GEVI):神経細胞の膜電位の変化を蛍光強度の変化に変換する蛋白質。遺伝子として細胞に導入でき、カルシウム指示薬より応答が速い。
  • パウエルレンズ:断面が屋根型の非球面レンズで、円形の光束を一方向へ扇状に広げ、強度がほぼ一様な線状の光を作る素子。光シートの形成に用いられる。
  • 遠隔焦点走査:試料や対物レンズを動かす代わりに、光学的に共役な別の位置に置いた小さな鏡を動かして焦点の深さを変える手法。動かす部品が軽いため高速化できる。

電位イメージングに使用された515 nmレーザー

Cobolt 515nmレーザー
515nmレーザー