Chen, G., Yu, F., Shi, L., Marar, C., Du, Z., Jia, D., Cheng, J.X., Yang, C. “High-Precision Photoacoustic Neural Modulation Uses a Non-Thermal Mechanism.” Adv. Sci. 2024, 11, 2403205. https://doi.org/10.1002/advs.202403205
背景
神経系の情報伝達を理解し、神経疾患の新たな治療法を確立する上で、高い空間精度で細胞活動を制御する神経変調は極めて重要な技術である。光を用いて特定の細胞を操作する光遺伝学は、細胞選択的な刺激を可能にする強力な手法として確立されている。また、生体深部まで到達可能な超音波を用いた刺激は、遺伝子操作を必要としない非侵襲的な手法として臨床応用が期待されている。光エネルギーを熱に変換する光熱効果を利用した刺激法は、局所的な温度上昇を通じて神経活動を誘起する特性を持つ。近年、新たな手法として注目される光音響効果は、短パルス光の吸収によって生じる急激な熱膨張が超音波(機械的波)を発生させる現象である。この光音響神経変調は、光の高い集光性と超音波の低侵襲性を兼ね備えており、単一細胞レベルでの高精度な刺激が可能である。光音響効果により生成された機械的な圧力波は、細胞膜に物理的な歪みを与え、電気的な干渉を抑えつつ神経活動を制御できるため、基礎研究および次世代の治療技術として大きな可能性を秘めている。
従来技術の問題点
しかし、光遺伝学は外来遺伝子の導入を必要とするため、ヒトへの臨床適用には安全性や倫理面での課題が残る。超音波刺激は非遺伝的であるが、空間分解能が数ミリメートル程度と低く、精密な制御が困難である。また、光熱刺激は神経を活性化させるために細胞周囲の温度を数度上昇させる必要があり、長時間または高頻度の刺激による組織の熱損傷が懸念される。光音響刺激においては、刺激の発生源である素子から圧力波と熱の両方が放出されるため、神経活動を誘発する真の要因が物理的な圧力であるのか、あるいは付随する熱であるのかという機序が未解明であった。
解決方法と結果
そこで、本研究では光音響刺激と光熱刺激を同一の条件で比較可能な光ファイバー型素子を開発し、単一細胞レベルでの検証を通じてこの問題を解決した。実験の結果、同一の神経活性レベルを得るために必要なレーザーエネルギーは、光音響刺激の方が光熱刺激よりも約40分の1という極めて低い値であることが判明した。光音響刺激時の温度上昇は無視できるほど微小であり、刺激が熱ではなく非熱的な機械的波によって引き起こされることを実証した。また、機械受容チャネルであるTRPC1やTRPP2、およびカルシウム増幅器であるTRPM4がこの機序において重要な役割を果たすことを特定した。本研究では、光熱刺激を生成するための純粋な熱源としてCobolt社製の連続発振1064nmレーザーを使用し、熱的寄与を精密に排除して比較した。本知見は、より安全で高効率な非遺伝的神経刺激法の設計に強固な基礎を与えるものである。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。
論文で使用されたCoboltのレーザー
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