深層学習を用いた強結合窒素空孔中心対のスピン状態読出し

Matthew Joliffe, Vadim Vorobyov, and Jörg Wrachtrup. “Readout of strongly coupled NV center-pair spin states with deep neural networks.” Quantum Sci. Technol. 10 (2025) 045006. https://doi.org/10.1088/2058-9565/adf2d6.

背景

 金剛石(ダイヤモンド)の結晶構造中に存在する窒素空孔(NV)中心は、個別のスピンを光で操作・計測できる固体量子系であり、高精度な量子感知機や量子計算機への応用が期待されている。特に、複数のNV中心が極めて近くに配置されたスピン群は、量子もつれ等の相関を利用することで、単一の中心では不可能な高感度な磁気計測や多ビットの量子情報処理を可能にする。この系において、電子のスピン状態を寿命の長い電荷状態の差へと写し取るスピン電荷変換技術は、室温環境で高い忠実度を維持したまま情報を読み出すための極めて有力な手段である。電荷状態には負電荷(NV⁻)と中性(NV⁰)の状態があり、特定の波長の光を用いることで、これらを高い計数効率の光子信号として識別できる。さらに、結晶格子内でのNV中心の向き(配向)の差異を利用し、照射する光の偏光を調整することで、特定の中心を選択的に強く発光させることも可能であり、未分離の複数信号に対して物理的な区別を付与できる利点がある。

従来の問題点

 しかし、スピン同士の強い結合を得るためには、中心間の距離を20nm以下という極めて近接した範囲に収める必要があるが、これは一般的な光学顕微鏡の分解能である300nmを大幅に下回るため、個別の信号を空間的に分離できない。また、複数の中心から得られる光子信号は、電荷状態の動的な切り替わり(電荷のイオン化や再結合)によって複雑に重なり合った光子計数分布となり、従来の物理モデルに基づく数式を用いた解析では、変数の増大に伴い計算が困難となり、多数のスピン群への拡張性が著しく制限されるという課題がある。

解決方法と結果

 そこで、本研究では深層学習の一種である畳み込み神経回路網を導入し、複雑な光子計数分布の図表からスピン状態を直接予測する手法を開発することで、数学的解析の困難さを解消した。本実験では、負電荷状態の選択的な励起および電荷状態の高精度な読み出しを目的として、Cobolt社製の594nmレーザーが使用された。この神経回路網は、光子計数分布のパターンから特徴を自動で抽出・学習し、複雑な物理パラメータを個別に特定することなく、高精度に二つのNV中心のスピン状態を個別に判別することに成功した。数値計算による検証では、本手法が五つのNV中心からなるスピン群まで有効に機能することが示された。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。

論文で使用されたCoboltのレーザー

594nmレーザー
594nmレーザー

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