Marzi, A., Eder, K.M., Barroso, Á., Kemper, B., Schnekenburger, J. “Revealing cellular mysteries with ultrafast lasers – Ultrafast lasers enable rapid cancer diagnosis with simultaneous two and three-photon imaging.” Hübner Photonics, White Paper SN:WP-20M10-025 (October 2025)
背景
生体内の構造や分子の詳細を非侵襲的に観察する技術として、近年、多光子顕微鏡が急速に注目を集めている。多光子顕微鏡とは、2つ以上の光子が同時に同じ分子を励起するという非線形光学現象を利用し、深部組織の三次元イメージングを可能にするものである。この技術においては、極めて高いピーク強度が必要であり、それを実現する手段として、フェムト秒レーザーが不可欠となる。
フェムト秒レーザーは、非常に短い時間幅(数十フェムト秒)の光パルスを発生させることができるため、高い空間的分解能と最小限の光損傷での局所的な励起を可能とする。また、2光子蛍光(2PF)、3光子蛍光(3PF)、第二高調波発生(SHG)、第三高調波発生(THG)など、複数の非線形信号を同時に取得できるため、生体組織の立体的かつ多面的な解析が可能である。このように、超短パルスレーザーは、がん診断などの医療応用や基礎生物学研究において極めて有用な光源となっている。
従来技術の問題点
しかし、従来の多光子顕微鏡システムでは、パルス幅が長く、ピーク強度が低いため、十分な信号強度を得るためには平均出力を上げざるを得ず、これが試料の加熱や光退色を引き起こしていた。特に3光子励起では、信号強度がピーク強度の3乗に依存し、パルス幅の2乗に反比例するため、従来の150フェムト秒程度のパルス幅では効率が著しく低下していた。
また、3光子信号の発生波長が1,080 nm未満である場合、標準的な顕微鏡対物レンズの材料により紫外域の吸収が起こり、信号が透過できないという光学的制限も存在していた。このため、効率的な3光子信号の生成と伝送には、より広帯域で短パルスなレーザーが求められていた。
解決方法の提案と結果
そこで、本研究では、VALO Femtosecond Seriesに代表される新世代の超短パルスファイバーレーザーを用いることで、従来技術の課題を解決した。このレーザーは、中心波長1,074 nm、-10 dB帯域幅148.8 nmの広帯域スペクトルを持ち、28フェムト秒という極めて短いパルス幅を実現している。内蔵された分散補償ユニットにより、顕微鏡光学系を通過後も最短パルスが試料に到達するよう設計されており、冷却装置を必要としないシステム構成も特徴的である。
このレーザーにより、2PF、3PF、SHG、THGといった4種類の非線形信号を同時に取得することが可能となり、それぞれの信号が異なる組織構造や分子成分を可視化する。SHGはコラーゲン繊維などの非中心対称構造、THGは屈折率の不均一な細胞膜や脂質構造、2PFと3PFはFADやNADHといった内因性蛍光分子を対象とし、細胞質や弾性繊維を描出する。
特に注目すべきは、気管支鏡検査における迅速ながん診断への応用である。従来は検体切片と染色を必要とした病理診断が、VALOレーザーを用いた高次高調波顕微鏡により、未処理の生体組織をそのまま観察でき、切除後わずか6分で87%の診断精度を達成したという報告がなされている。これにより、手術中の迅速な診断と治療方針の決定が可能となる。
Cobolt社製のVALOレーザーは、中心波長1,074 nm、-10 dB帯域幅148.8 nm、パルス幅28フェムト秒の超短パルス光を発振し、二光子・三光子励起およびSHG・THG画像取得を同時に行うために使用された。

30フェムト秒の広帯域ファイバレーザーVALO(赤)の基本波および第3高調波(THG)スペクトルを、標準的な150フェムト秒レーザーと比較したものである。黒の実線は、一般的な顕微鏡対物レンズの透過特性を示している。
1,080 nm以上の波長から生成されたTHGスペクトルのみが透過される。
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