膨張顕微鏡法による相同染色体対合装置の分子構造の解明

Zwettler, F.U., Spindler, M.-C., Reinhard, S., Klein, T., Kurz, A., Benavente, R. & Sauer, M. “Tracking down the molecular architecture of the synaptonemal complex by expansion microscopy.” Nat. Commun. 2020, 11, 3222. https://doi.org/10.1038/s41467-020-17017-7

背景

 減数分裂において相同染色体の対合・組換え・分離を司るシナプトネマ複合体(SC)は、有性生殖に不可欠な多タンパク質複合体であり、その分子構造の解明は重要な研究課題である。SCは二本の側方要素、中央要素、および両者を連結する横糸フィラメントからなる梯子状の保存された構造を有する。従来、このような多タンパク質複合体の微細構造の解析には電子顕微鏡が必要であった。試料を膨潤性含水ゲルに包埋して物理的に膨張させることで、通常の蛍光顕微鏡でも回折限界を迂回できる膨張顕微鏡法(ExM)が開発され、約70 nmの横方向分解能での観察が可能となっている。

従来の問題点

 しかし、高倍率の膨張は標識密度を著しく低下させ、構造分解能の劣化を招く問題があった。加えて、三次元的な等方的膨張や多タンパク質複合体の超微細構造が忠実に保存されるかについても疑問が残されていた。さらに、超解像顕微鏡法の一つであるdSTORMは高い空間分解能を提供するものの、光スイッチング緩衝液の最適化が必要なため同時に二色までの観察に制限されていた。

解決方法と結果

 そこで、本研究ではタンパク質膨張解析法(MAP)と構造化照明顕微鏡法(SIM)を組み合わせたMAP-SIM法を開発し、マウス精母細胞のSCを20〜30 nmの空間分解能で三色同時超解像観察することに成功した。MAP法は約4.2倍の等方的膨張と分子構造の保存を達成し、膨張後に免疫標識を行うことで従来到達できなかった抗原部位への標識効率の向上と連結誤差の低減を実現した。その結果、SC中央領域のタンパク質が単純な層状構造ではなく複雑な網目状構造を形成していること、また側方要素が二本以上の副側方要素に分岐する様子を光学顕微鏡で初めて可視化した。大視野三次元撮像に用いた再走査型共焦点顕微鏡にはCobolt社製Skyra多波長光源(405、488、561、640 nm)が励起光源として使用された。

【用語解説】

dSTORM:有機蛍光色素の確率的な光スイッチング現象を利用して個々の分子の位置を逐次的に決定し、回折限界以下の分解能で画像を再構築する超解像顕微鏡法の一種である。

シナプトネマ複合体(SC):減数分裂の前期Iにおいて相同染色体間に形成されるタンパク質構造体。染色体の対合と遺伝的組換えの場を提供し、正常な配偶子形成に必須である。

膨張顕微鏡法(ExM):試料を膨潤性含水ゲルに包埋し、物理的に数倍に膨張させることで、通常の蛍光顕微鏡でも回折限界を迂回した高分解能観察を可能にする手法である。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいております。

実験に使用されたCobolt Skyra

Skyra
Skyra

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