Neupane, T., Werdell, P.J., Zhang, X. “Spectral dependence of the depolarization ratio of pure water.” Applied Optics 2026, 65, 4895–4901. https://doi.org/10.1364/AO.590152
純水による光散乱は、海洋光学や海色リモートセンシングにおいて基準となる基本的な物理現象であり、衛星観測から海洋中の植物プランクトンや溶存有機物などの光学特性を推定する際に、純水自身の散乱を差し引く基準量として重要である。光散乱の強度と角度分布は、水分子の密度ゆらぎと配向ゆらぎの両方によって決まる。配向ゆらぎの寄与は脱分極比(δ)で表され、これは入射光に対して90°方向に散乱された光のうち、分子が完全な球形であれば現れないはずの水平偏光成分の割合と定義される。δは散乱関数の絶対値と角度形状の両方を変える因子であるため、純水の散乱を精密に記述するうえで不可欠な量である。水分子は酸素原子の同じ側に二つの水素原子をもつ非対称構造であり、その分極率テンソルの異方性成分が脱分極を引き起こす。
しかし、純水のδ測定はその値が極めて小さく高感度の装置が必要なため困難であり、報告されている測定はほぼ1970年以前に限られている。値も0.039から0.125まで大きくばらつき、波長依存性の傾向についても文献間で短波長側で増加するとの報告と減少するとの報告が併存し、一致した見解が得られていない問題点がある。このため海洋光学分野では可視域全体にわたって波長に依存しない一定値δ = 0.039が便宜的に採用されてきた。
そこで、本研究では現代的な光子計数型散乱計LS Spectrometerを用い、491、532、660 nmの3波長で純水のδを測定し、迷光補正とトルエンによる校正を入念に行うことで解決した。Cobolt社製のレーザー発振器(Calypso 491.5 nm、Samba 532.1 nm、Flamenco 659.6 nm)は各波長における散乱光強度測定のための励起光源として用いられた。得られた平均値は491 nmで0.0417 ± 0.01369、532 nmで0.0393 ± 0.00800、660 nmで0.0363 ± 0.00494であり、短波長ほどδがわずかに増大する傾向が示された。この傾向は測定不確かさの範囲内に収まるものの、可視域では光の振動数が高くなるほど分極率テンソルの異方性成分が等方性成分よりも相対的に大きく増加するという理論的予測と整合する。
※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。
分光に使用されたレーザー
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