AgGaS₂結晶における波長可変中赤外自発パラメトリック下方変換の特性評価

Krajinić, F., Ćurčić, M., Lekić, M., Jelenković, B. “Characterization of tunable mid-infrared spontaneous parametric down-conversion in AgGaS₂.” Applied Physics B 2026, 132, 48. https://doi.org/10.1007/s00340-026-08663-8

背景

 非線形光学過程の一つである自発パラメトリック下方変換(SPDC)は、非線形結晶中で1個の励起光子がエネルギーの低い2個の光子対(信号光子とアイドラー光子)に変換される現象であり、量子撮像や量子分光への応用から近年急速に研究が進められている。SPDC により生成される光子対は空間的・分光的・時間的・偏光的に相関を持ち、この性質を利用することで、検出が困難な中赤外領域のアイドラー光子を直接検出せずに、相関する可視域・近赤外域の信号光子から対象物の情報を取得できる。中赤外領域には分子固有の振動吸収帯が多数存在し、指紋領域と呼ばれるこの波長域は分子同定に極めて有用である。硫化銀ガリウム(AgGaS₂、以下AGS)結晶は500 nmから12.5 μmまでの広い光透過域と高い非線形光学係数を有しており、中赤外光子の生成媒質として有望な候補である。

従来の問題点

 しかし、従来のAGS結晶を用いたSPDC光源では、生成される光子の輝度が低く、また波長可変域が限定されるという問題点があった。先行研究では励起波長が785 nmや783.9 nmの近赤外域に限られており、アイドラー光子の波長範囲や対応する信号光子の波長域にも制約が存在した。加えて、信号光子が長波長側に位置するため、Si系検出器の量子効率が低下する領域での検出を余儀なくされていた。

解決方法と結果

 そこで、本研究では励起波長を660 nmに選定し、厚さ1 mmのAGS結晶の位相整合角を回転調整することによって、これらの課題を解決した。Cobolt社製の660 nmレーザー(Flamenco)をSPDCのポンプ光源として使用し、AGS結晶に照射した。結晶の角度調整により、アイドラー光子の波長を中赤外域の5.661 μmから10.885 μm(1766~919 cm⁻¹)にわたって連続的に可変とすることに成功した。対応する信号光子は747.1~702.6 nmの近赤外域に位置し、Si系検出器の高感度帯域に合致する。光子対源の輝度は(29.2 ± 1.1) MHz/mWに達し、従来のAGS光源と比較して約2桁高い値を実現した。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいており、査読前論文です。

使用された660 nmレーザー

660nmレーザー
660nmレーザー

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