多焦点面顕微鏡による細胞内蛍光ナノダイヤモンドの3次元位置決定と光検出磁気共鳴

Zhang, B., Yang, Y., Su, J., Zeng, L., Kong, Z., Li, Z., Yang, Z., Shi, F. “3D positioning and optically detected magnetic resonance of intracellular fluorescent nanodiamonds using a multi-plane microscope.” Biophysics Reports 2026, 12(1), 8–17. https://doi.org/10.52601/bpr.2025.250012

背景

 細胞の中で個々の粒子の軌跡を追う単一粒子追跡は、多数の粒子を平均した計測では見えない微小環境の不均一さを、粒子1個の単位で明らかにできる。標識には、窒素原子と隣接する原子空孔が対をなす点欠陥(窒素空孔中心)を発光源とする蛍光ナノダイヤモンドが適しており、明るく、褪色も明滅もせず長時間の観察に耐える。窒素空孔中心の電子スピンは常温常圧のまま光で初期化と読み出しができ、マイクロ波を用いる光検出磁気共鳴で、周囲の温度や磁場をナノスケールで読み取る量子センサとしても働く。

従来の問題点

 しかし、広視野顕微鏡を使う量子センシングは、2次元の相関計測に限られていた。焦点を機械的に動かして立体的な情報を得ようとすると撮影速度が大きく落ち、細胞内に立体的に散らばる複数の粒子の動きを同時に捉えることができない。

結果

 そこで本研究では、光路に特殊な分割プリズムを組み込み、深さの異なる八つの焦点面を二台のカメラへ同時に投影する多焦点面広視野顕微鏡を構築することで解決した。機械可動部を使わずに50×50×5 µm³の空間を一度に撮像でき、フーリエ変換の位相を利用する位置決定法により、横方向9 nm・軸方向12 nmの精度を得た。この装置でAdamas Nanotechnologies社製の平均粒径100 nmの蛍光ナノダイヤモンド(ND100)をマウス心筋細胞に取り込ませ、細胞内に分布する粒子の3次元位置を一括して決定した。同じ視野の粒子群にマイクロ波を掃引すると、零磁場分裂に対応する2870 MHz付近で蛍光強度の低下が並列に観測され、細胞内での光検出磁気共鳴が成立した。さらに毎秒160コマで複数粒子の3次元追跡も実演し、温度計測と運動追跡を同時に行う道筋を示した。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • 窒素空孔中心(NV中心):ダイヤモンド結晶中で炭素原子1個が窒素原子に置き換わり、その隣の炭素の位置が空孔になった点欠陥。電子スピンの状態が発光の明るさに現れるため、光だけで状態を読み出せる。
  • 光検出磁気共鳴(ODMR):マイクロ波の周波数を掃引しながら発光強度を測り、スピンの共鳴を発光の落ち込みとして検出する手法。落ち込みの位置から温度や磁場の大きさが分かる。
  • 零磁場分裂:外部から磁場をかけなくても、スピンの副準位の間に生じるエネルギー差。NV中心では約2870 MHzで、温度や応力に応じて動くため、これがセンサの目盛りになる。