量子増強ナノダイヤモンド迅速検査が実現する、SARS-CoV-2抗原の早期臨床検出

Thomas DeCruz, A., Miller, B.S., Huang, D., McRobbie, M., Donaldson, F., McCoy, L.E., O’Sullivan, C.K., Botha, J.C., Nastouli, E., McKendry, R.A. “Quantum-enhanced nanodiamond rapid test advances early SARS-CoV-2 antigen detection in clinical diagnostics.” Nat. Commun. 2025, 16, 8778. https://doi.org/10.1038/s41467-025-63066-1

背景

 新型コロナウイルスのような感染力の強い病原体の流行抑制には、発症初期の感染者をその場で見つける検査が欠かせない。抗原を検出するラテラルフロー検査は、安価で15分以内に結果が得られ、薬局や家庭でも実施できる。一方、室温で量子状態を保つダイヤモンド中の発光性欠陥である窒素空孔(NV)中心を多数含む蛍光ナノダイヤモンドは、退色しない明るい赤色蛍光を示すうえ、マイクロ波の照射で蛍光強度を変調できるため、検査膜の自家蛍光を除いて信号だけを取り出せる標識粒子として期待されている。

従来の問題点

 しかし、市販の抗原検査の多くは検出限界が105〜106コピー/mL程度と感度が不足し、ウイルス量が中程度(Ct値25〜30)の検体を見逃して、PCRより1〜2日遅れて陽性となる問題がある。また、蛍光ナノダイヤモンド検査はモデル試料での実証が中心で、実際の臨床検体での大規模評価は報告されていなかった。

結果

 そこで本研究では、スピン変調した蛍光ナノダイヤモンドを標識とするSARS-CoV-2抗原検査を開発し、103件の臨床スワブ検体の盲検評価で臨床性能を実証した。標識にはAdámas Nanotechnologies社製の600 nmポリグリセロール被覆蛍光ナノダイヤモンド(NV濃度約3 ppm)に抗ヌクレオカプシド抗体を結合したものを、抗原を捕捉する検出粒子として用いた。組換えタンパク質での検出限界は17 fMと、同一抗体の金ナノ粒子検査の約1000倍の感度を達成した。臨床検体ではCt値25以下で感度100%、30以下で95.1%、特異度100%を示し、他の呼吸器ウイルスとの交差反応もなかった。感染動態データの解析から、金ナノ粒子検査より平均2.0日早く感染を検出でき、発症初日には2.2倍の患者を診断できると推定された。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • NV中心(窒素空孔中心):ダイヤモンド結晶中で炭素原子が抜けた空孔と置換窒素が隣り合った発光性の格子欠陥。電子スピンの状態に応じて蛍光強度が変化し、室温で動作する量子センサとして働く。
  • ラテラルフロー検査(LFT):膜の上を検体が毛細管現象で流れ、テストライン上の捕捉抗体が標識粒子と抗原の複合体を捕まえて判定する簡易検査。妊娠検査薬や新型コロナ抗原検査に使われている。
  • Ct値:PCR検査で蛍光信号が閾値に達するまでに要した増幅サイクル数。検体中のウイルス量が多いほど小さくなり、25以下は高ウイルス量、30前後は中〜低ウイルス量の目安とされる。