Zvi, U., Mundhra, S., Ovetsky, D., Chen, Q., Jones, A.R., Wang, S., et al. “Probing Cellular Activity Via Charge-Sensitive Quantum Nanoprobes.” Advanced Materials 38, e2505107 (2026). https://doi.org/10.1002/adma.202505107
ダイヤモンドのナノ結晶に含まれる窒素空孔(NV)中心は、電子スピンを光で読み書きでき、磁場や温度をナノスケールで高感度に測れることから、生きた細胞の内部を調べる量子センサとして近年注目されている。これまで主に磁場や温度の計測に活用されてきた。一方で、細胞の状態は周囲の化学的な環境、すなわち電荷の偏りやイオンの出入りにも強く表れる。細菌由来の刺激(LPS)を受けたマクロファージが炎症状態へ移行する過程は、生体防御や慢性疾患の理解に直結する。こうした細胞の活動を化学的環境の変化として、細胞を傷つけずに実時間で捉えることが求められている。
しかしながら、分泌物を測る方法は多数の細胞の平均しか得られず、遺伝子発現の解析は細胞を壊すため一時点しか測れない。また蛍光を用いる方法は、退色や信号のゆらぎで安定性に乏しく、単一細胞レベルでの持続的な観察には向かないという問題点がある。
そこで本研究では、NV中心を含むナノダイヤモンドの、電荷に応じて変化するゼロ磁場分裂(ZFS)と呼ばれるスピン共鳴の周波数シフトを読み取る手法を確立することで解決した。Adamas Nanotechnologies社製の70nmのダイヤモンドナノ結晶(電子線照射でNV中心を形成)を量子センサとして用い、これを取り込んだマクロファージ様のRAW細胞でZFSを追跡した。表面がむき出しのナノダイヤは、LPSで炎症を起こした細胞内で無刺激の細胞とは有意に異なる負のZFS変化を示した。一方、生体適合性のシェルで覆ったナノダイヤではこの変化が抑えられ、シフトが表面の電荷相互作用に由来することが裏付けられた。温度や磁場に頼らず、細胞の活性化状態を化学的環境の変化として捉えられることを示した。
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。
【用語解説】
- NV中心(窒素空孔中心):ダイヤモンド結晶中で、隣り合う炭素原子が窒素原子と原子の抜け(空孔)の対に置き換わった発光する欠陥。電子スピンを光で読み書きでき、磁場・温度・電場に対する高感度なセンサとして働く。
- ゼロ磁場分裂(ZFS):外部磁場がなくてもNV中心の電子スピン準位に生じるエネルギー差。周囲の電場や温度でわずかに変化するため、その周波数シフトを測ると環境の変化を読み取れる。
- ODMR(光検出磁気共鳴):NV中心に電波(マイクロ波)を当て、蛍光強度の変化からスピン共鳴の周波数を読み取る手法。ZFSの測定に用いる。
