Nunn, N., Marek, A., Torelli, M.D., Smirnov, A.I., Shenderova, O.A. “Optimizing ensemble NV− spin properties of fluorescent diamond microparticles by systematic low pressure high temperature annealing.” Front. Quantum Sci. Technol. 2025, 4, 1709220. https://doi.org/10.3389/frqst.2025.1709220
ダイヤモンド中の窒素空孔中心(NV中心)は、室温でもスピンの状態を光で初期化・読み出しでき、温度や磁場を微小な領域で測れることから、量子センサーとして急速に研究が進められている。粉体状の蛍光ダイヤモンド粒子は、液体や細胞など多様な対象に分散させて使える利点をもつ。NV中心は、合成ダイヤモンドに高エネルギーの電子線を当てて空孔を作り、続く加熱処理(アニール)で空孔を拡散させ、格子中の窒素と結合させて作られる。
しかし、標準的な900℃・2時間のアニールでは、照射による格子の乱れや、置換型窒素であるP1中心が多く残る。これらの常磁性欠陥はNV中心と磁気的に相互作用し、格子のひずみとあわせて光検出磁気共鳴(ODMR)の線幅を広げ、信号の落ち込みを小さくするため、計測感度が伸びない。逆に高温で長時間処理するとNV中心自体が消えて輝度を失う。従来の検討はバルクの基板や発光特性が中心で、粒子についてODMR特性を系統的に調べた例はなかった。
そこで、本研究ではAdámas Nanotechnologies社製の直径約3マイクロメートルの蛍光ダイヤモンド微粒子を1200〜1800℃で5・15・30分という条件で系統的に低圧高温アニールし、電子スピン共鳴、ODMR、スピン格子緩和時間、発光を突き合わせて評価することで解決した。1400〜1700℃では5分の処理でもODMRのコントラストが約9%から約13%へ上がり、ひずみパラメータEは4.5MHzから2.5MHzへ、線幅は7MHzから4MHzへ狭まり、緩和時間はバルクに近い約5ミリ秒に達した。この粒子による温度計測のばらつきは約77%改善した。1800℃では黒鉛化により特性が劣化した。スピン濃度を定量する際の標準試料にも同社製の1マイクロメートル粒子が用いられている。
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。
【用語解説】
- 光検出磁気共鳴(ODMR):マイクロ波で電子スピンの共鳴を起こし、その際に生じる蛍光強度の低下として共鳴を読み取る手法。共鳴周波数のずれから温度や磁場を求める。
- P1中心:ダイヤモンドの炭素原子が窒素原子に置き換わった欠陥。電子を1個余分に持ち磁石のように振る舞うため、近くのNV中心のスピンの性質を乱す。
- 低圧高温(LPHT)アニール:高圧をかける複雑な装置を使わず、低圧の環境で1000℃を超える高温に短時間さらす熱処理。格子の乱れを取り除き、欠陥を移動・再配置させる。
