水素終端した表面が高圧合成ナノダイヤモンドのシリコン空孔発光を弱める ― 表層約6 nmの失活を定量

Pasternak, D.G., Zhivopistsev, A.A., Romshin, A.M., Kudryavtsev, O.S., Bagramov, R.H., Filonenko, V.P., Kargin, N.I., Vlasov, I.I. “Effect of H-Terminated Surfaces on “Silicon-Vacancy” Fluorescence in High-Pressure Nanodiamonds.” Nanomaterials 2025, 15, 1842. https://doi.org/10.3390/nano15241842

背景

 炭化水素を出発原料として高圧高温(HPHT)法で合成される新世代の蛍光ナノダイヤモンドは、結晶品質が高く黒鉛質の混入がほとんど無いことから、単一光子源やナノメートル寸法の光センサの材料として研究が進められている。ダイヤモンド結晶中で珪素原子と空孔が対を成した欠陥であるシリコン空孔(SiV)中心は、発光線の幅が狭く温度に応じて発光位置が移動するため、生体環境における極めて局所的な温度計測にも利用されてきた。同様の合成法では窒素空孔(NV)中心やゲルマニウム空孔(GeV)中心も形成でき、SiV中心を狙って作り込む手法も報告されている。

従来の問題点

 しかし、炭化水素から合成されたナノダイヤモンドの表面は水素で終端され、成長過程で生じたCHx基が多く残るという問題がある。水素終端は結晶の表面近くに正孔の層を作り、負に帯電したSiV−中心はこの正孔と再結合して余分な電子を失い、中性状態へ変わって発光が失われる。この現象は水素終端した薄膜やイオン注入した試料では報告されていたものの、炭化水素由来のHPHTナノダイヤモンドについては詳しく調べられていなかった。

結果

 そこで、本研究では走査型電子顕微鏡の電子線を照射して表面の水素を脱離させ、同一粒子について脱離前後のSiV発光を比較することで、この影響を定量的に明らかにした。直径50〜300 nmの粒子を調べた結果、300 nm程度の粒子でも発光の増加が認められ、およそ100 nm以下では50%を超える増加が生じた。励起強度に対する発光の飽和曲線から求めた飽和励起強度は処理の前後で一致しており、発光の増加は励起効率の変化ではなく、発光に寄与するSiV−中心の数が増えたことに由来すると分かった。粒径依存性を、表面から一定の深さの層だけが失活するという模型に当てはめると、電荷が中和される表層の厚さは約6 nmと見積もられた。この結果は、実用的な発光体や量子センサを得るには成長後の表面処理が欠かせないことを示している。なお、Adámas Nanotechnologies社製の平均3〜4 nmの爆轟ナノダイヤモンド(DND)は、アダマンタンおよび珪素源とともに合成原料へ25対1の重量比で混合され、約1%の窒素を含む種結晶としてHPHT成長の出発材料に用いられた。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • シリコン空孔(SiV)中心:ダイヤモンド結晶中で炭素原子2個分が抜けた位置に珪素原子1個が入り込んだ欠陥。約738 nmに幅の狭い発光線を持ち、負に帯電した状態(SiV−)が発光に寄与する。
  • 水素終端表面:ダイヤモンド表面の炭素の未結合手が水素と結びついた状態。表面近傍に正孔が集まりやすくなり、負に帯電した発光中心の電荷状態を変えてしまう。
  • 高圧高温(HPHT)合成:数ギガパスカルの圧力と1000℃を超える温度でダイヤモンドを作る方法。本研究では約7.5 GPa、1350〜1450℃で炭化水素からナノダイヤモンドを合成している。