量子センシングで解き明かす ― PCL/Matrigel人工皮膚モデル内での抗酸化物質の効果

Wu, X., Koch, M., Perona Martínez, F.P., Schirhagl, R., Włodarczyk-Biegun, M.K. “Quantum Sensing Unravels Antioxidant Efficacy Within PCL/Matrigel Skin Equivalents.” Small 2024, 20, 2403729. https://doi.org/10.1002/smll.202403729

背景

 皮膚は人体で最も大きな器官であり、紫外線などの刺激から体を守ることから、その老化や損傷の仕組みを調べる研究が進められている。紫外線による酸化ストレスは反応性の高い活性酸素を細胞内に生み、皮膚の萎縮やしわ、皮膚がんの一因となる。この過程を試験管内で再現するため、生体適合性と加工性に優れる高分子ポリカプロラクトン(PCL)の足場に細胞を組み込んだ人工皮膚モデルが使われている。また、ダイヤモンド中で炭素が窒素と空孔の対に置き換わった窒素空孔(NV)中心という発光欠陥は、周囲の活性酸素がもつ磁気的性質を光の変化として感じ取れるため、細胞内の反応を室温で測る量子センサとして注目されている。

従来の問題点

 しかし、従来の人工皮膚は細孔が大きく細胞を狙った位置に並べにくいため、表皮と真皮の層構造を本物に近づけにくかった。活性酸素の検出に使われてきた有機蛍光色素も、光を当て続けると褪色し、単一細胞レベルの空間情報を得にくかった。

結果

 そこで本研究では、溶融エレクトロライティングで印刷したPCLの足場に細胞入りのマトリゲルを組み合わせ、表皮・真皮の二層をもつ人工皮膚を作ることで解決した。この複合体は厚さ約1 mm、培養7日で圧縮弾性率が約70 kPaと、本物の皮膚に近い構造と硬さを示した。活性酸素の可視化には、Adámas Nanotechnologies社製の蛍光ナノダイヤモンド(粒径70 nm、1粒あたり約500個のNV中心を含む)を用いた。負に帯電したナノ粒子は細胞に取り込まれにくいため、正電荷をもつ四級化キチンで被覆して表面電位を反転させ、取り込みを約7倍に高めた。取り込ませたNV中心のスピンが緩和するまでの時間(T1)を共焦点顕微鏡で測ることで、細胞ごとの活性酸素濃度を定量した。紫外線を照射して酸化ストレスを与えると、抗酸化物質を加えた細胞ではT1リラクソメトリーの信号から活性酸素の減少が確認でき、茶ポリフェノールがL-アスコルビン酸より高い抗酸化効果をもつことを、単一細胞レベルで明らかにした。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • T1リラクソメトリー:NV中心のスピンを一度そろえてから、元の状態へ戻る(緩和する)までの時間T1を測る手法。近くに活性酸素のような磁気を帯びた分子があるほどT1が短くなるため、その濃度を推定できる。
  • 溶融エレクトロライティング(MEW):溶かした高分子を電圧で細い繊維として噴き出し、狙った位置に積み上げて微細な足場を印刷する3D造形技術。細孔の大きさや繊維の配列を精密に制御できる。