Dhungel, O., Sengottuvel, S., Mrózek, M., Lenz, T., Bar-Gill, N., Wojciechowski, A.M., Wickenbrock, A., Budker, D. “All-optical low-field magnetometry of superconductors using NV nanodiamonds.” Measurement 2026, 283, 122080. https://doi.org/10.1016/j.measurement.2026.122080
ダイヤモンド結晶中で窒素原子と原子空孔が隣り合って対をなした発光性の点欠陥である窒素空孔中心(NV中心)は、外部磁場に応じて蛍光の強さが変わるため、室温で働く微小な磁気センサとして使われている。超伝導体には、磁場を内部から締め出すマイスナー効果や、磁束が糸状に侵入する渦糸といった性質があり、これらを局所的に測ることが物性研究の要となる。粒径が1マイクロメートルに満たないナノダイヤモンドは、試料の表面に直接振りかけて置けるため、センサと試料の距離を極限まで縮められる利点がある。
しかし、NV中心を用いた超伝導研究の多くはマイクロ波を照射して磁気共鳴を読み取る方式に頼っており、強いマイクロ波が試料の局所的な性質そのものを変えてしまう恐れがある。極低温装置の中にマイクロ波用の配線を組み込むことが難しい場合も多い。また、平板のダイヤモンド基板を密着させる方式では、表面が粗い試料や壊れやすい試料に適用しにくいという制約もある。
そこで、本研究ではマイクロ波を使わず、ゼロ磁場付近で起こる交差緩和という現象を利用した全光学的な磁気計測を行うことで解決した。NV中心は磁場がほぼ零のとき、近くの常磁性不純物とスピンのエネルギー差が一致して効率よくエネルギーを交換し、その結果として蛍光が落ち込む。この落ち込みの位置と深さを追うだけで、局所的な磁場の変化が読み取れる。ここではAdamas Nanotechnologies社製の粒径140ナノメートルのカルボキシル化蛍光ナノダイヤモンドを、厚さ200ナノメートルのYBCO超伝導薄膜の上に水分散液から滴下・乾燥させて振りかけ、その蛍光を追跡した。1ミリテスラの矩形波磁場を加えながら冷却したところ、蛍光応答から転移温度として87.5ケルビンと88.2ケルビンの二つの値が得られ、製造元の公称値と一致した。磁場を掃引した測定では、88ケルビンで約0.4ミリテスラから磁束の侵入が始まり、温度を下げるほど侵入が始まる磁場が高くなることが示された。
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成(背景・従来の問題点・結果)で再構成した日本語要約です。
【用語解説】
- マイスナー効果:超伝導状態になった物質が内部から磁場を締め出し、磁力線が中を通らなくなる現象。超伝導であることを示す代表的な目印。
- 交差緩和:二つのスピン系のエネルギー間隔が一致したときに共鳴的にエネルギーが行き来し、一方のスピンが平衡状態へ戻る速さが増す現象。
- 下部臨界磁場:第二種超伝導体で、磁束が渦糸として内部に侵入し始める磁場の大きさ。これを超えると完全に磁場を排除した状態から渦糸が混在する状態へ移る。
