フォトニクス用語解説

当社のフォトニクス最新ニュースに登場する専門用語を、平易な日本語でまとめた解説集です。各ニュースカードの用語から、このページの該当項目にリンクしています。

レーザー顕微鏡

iSCAT(干渉散乱顕微鏡)

試料で散乱したごく弱い光を、別途用意した参照光と干渉させて検出する顕微鏡法です。蛍光色素による標識を必要とせず、ナノ粒子・ウイルス・タンパク質・細胞膜などの微細構造を高い感度で捉えられます。散乱光は対象が小さいほど弱くなりますが、干渉によって信号を実質的に増幅できるため、ごくわずかな量の物質でも観察可能です。照射する光のパワーを抑えられるので、色素の褪色や光毒性が問題になる生きた細胞を、長時間にわたり繰り返し観察できる点も大きな利点です。

超解像顕微鏡(SIM・STEDなど)

光が波である以上避けられない「回折限界」(可視光でおよそ200nm)を超えて、より細かい構造を見分ける顕微鏡技術の総称です。代表例として、複数の縞模様の照明を重ね合わせ計算で分解能を高める構造化照明顕微鏡(SIM)や、ドーナツ状のレーザーで発光する領域を絞り込む誘導放出抑制(STED)などがあります。これらにより、従来の光学顕微鏡では一点に見えていた細胞内のタンパク質や小器官を、数十nm級で個別に観察できます。生命科学から材料研究まで幅広く使われています。

画像走査顕微鏡(ISM)

共焦点顕微鏡を発展させた手法で、1点ごとの光を単一の検出器ではなく小さなアレイ(複数画素)の検出器で受け取ります。得られた画素をわずかにずらして再配置(ピクセルリアサイン)することで、分解能と信号対雑音比(S/N)を同時に高められます。従来の共焦点顕微鏡より明るく、かつ高解像な像が得られるのが特徴です。レーザー走査と組み合わせて生きた細胞のイメージングなどに用いられ、近年は手軽な超解像手法の一つとしても注目されています。

無標識(ラベルフリー)イメージング

蛍光色素や金属コロイドといった標識(ラベル)を使わず、試料そのものが持つ光学的な性質(散乱・屈折率・位相・偏光など)を手がかりに観察する手法の総称です。標識作業が要らないため試料を傷めにくく、色素由来の光毒性や、時間とともに発光が弱まる褪色の問題も避けられます。これにより、生きた細胞や組織を本来の状態に近いまま、長時間観察できます。iSCATや位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡などが代表的な無標識法です。

クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)

電子線を使って生体分子の立体構造を調べる手法がクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)です。試料を急速凍結し、低い電子線量で多数の分子を撮影して計算機で重ね合わせることで、タンパク質などの3次元構造を高い分解能で求めます。X線結晶構造解析と違い結晶を作る必要がない一方、小さな分子はコントラスト(明暗の差)が不足して鮮明に写しにくいという課題がありました。近年はレーザーで電子線の位相をずらす「位相板」など、コントラストを高める工夫が進んでいます。

ライトシート顕微鏡(light-sheet microscopy)

試料を薄いシート状の光で横から照らし、その照明面だけを励起して直交方向のカメラで一気に撮像する顕微鏡法です。点ごとに走査する共焦点顕微鏡と違い面を一度に捉えるため高速で、光が当たる範囲が狭く退色や光毒性を抑えられます。透明化処理した組織や生きた胚など厚みのある試料を、低ダメージで長時間にわたり三次元観察できるのが特長です。神経回路の全脳マッピングや発生生物学、3D病理など、広い分野で活用が進んでいます。

光コヒーレンストモグラフィー(OCT)

近赤外光の干渉を利用して、生体組織などの断面を非侵襲・無標識で高解像度に3D撮像する技術。造影剤を使わず、光の後方散乱が戻るまでの遅延(干渉)を測ることで深さ方向の構造を可視化する。眼科の網膜検査で広く使われ、皮膚科や血管内診断などへも応用が広がる。分解能は数µm程度で、ミリ単位の深さまで断層像が得られるのが特長。

蛍光寿命イメージング(FLIM)

蛍光色素が光を吸収してから再放出するまでの「寿命」(ナノ秒オーダー)を画素ごとに測って画像化する手法。蛍光の明るさではなく寿命を使うため、色素濃度や退色の影響を受けにくく、周囲のpH・イオン濃度・分子間相互作用(FRETなど)といった微小環境を定量的に捉えられる。生体組織の無標識診断や細胞内代謝の可視化などに応用される。

マルチモードファイバイメージング

1本の細いマルチモード光ファイバに光を通すと、内部で多数のモードが干渉して複雑な斑点模様(スペックル)になります。マルチモードファイバイメージングは、このスペックルと元の像の対応をあらかじめ校正するか、深層学習で学習しておくことで、ファイバ先端に届いた像を1本のファイバだけで復元する技術です。レンズを付けずに髪の毛ほどの細さで体内の狭い場所まで届くため、内視鏡やニューロイメージングなど低侵襲な観察への応用が進んでいます。

レーザー分光

周波数コム

光の周波数が、櫛の歯のように等間隔で何万本も並んだ特殊なレーザー光源です。各歯の周波数が極めて精密に分かっているため、未知の光の周波数や波長を測る「物差し」として機能します。2005年のノーベル物理学賞の対象となった技術で、超精密な分光分析、原子時計などの時刻・周波数標準、距離計測、さらには天文観測まで幅広く応用されています。近年は光チップ上に小型化する研究も進み、装置の卓上化・実用化が加速しています。

デュアルコム分光

繰り返し周波数がほんのわずかに異なる2つの周波数コムを重ね合わせ、その干渉(うなり)を測ることで分子の吸収スペクトルを得る手法です。プリズムや回折格子、機械的に動く部品を一切使わずに、広い波長範囲を高速かつ高分解能で一度に測定できるのが最大の特長です。ガス成分の分析や大気・環境モニタリング、呼気による健康診断などに応用され、従来の分光器では難しかった短時間・高精度の計測を可能にします。

ラマン分光

試料にレーザー光を当てたとき、分子の振動とエネルギーをやり取りして波長(色)がわずかにずれて戻ってくる散乱光(ラマン散乱)を分析する手法です。ずれの大きさは分子の種類や結合状態に固有なので、物質の「指紋」として組成や構造を非接触・非破壊で同定できます。前処理がほとんど不要で固体・液体・気体のいずれにも使えるため、製薬、半導体、食品、地質、美術品の分析など、基礎研究から製造現場の品質管理まで幅広く利用されています。

テラヘルツ分光

電波と赤外線の中間にあたる、周波数およそ0.1〜10THz(波長3mm〜30μm)の電磁波を使う分光法です。この帯域は分子の回転運動や結晶格子の振動、生体高分子の集団的な動きに対応しており、他の手法では捉えにくい情報を得られます。テラヘルツ波は紙・布・プラスチックを透過する一方で人体に電離作用を及ぼさないため、非破壊検査、危険物や医薬品の検査、セキュリティ検査、材料評価などへの応用が期待されています。

拡散光計測(拡散光トモグラフィ)

生体組織のように光を強く散乱する媒質へ近赤外光を入れ、内部で何度も散乱して出てきた光を測ることで、組織の吸収・散乱特性や内部構造を推定する手法です。ヘモグロビン濃度や血中酸素などの情報を非侵襲で得られるため、脳機能計測や乳がん検査などに応用されます。散乱が支配的な領域を扱う点が単純な透過イメージングと異なり、卵殻のように光を閉じ込める構造の研究とも関わります。

コリニアレーザー分光

加速器で作った原子・イオンのビームと、レーザー光を同じ一直線(コリニア=共軸)に重ねて行うレーザー分光。ビームを高速に走らせることで速度のばらつきによる周波数の広がり(ドップラー幅)が圧縮され、非常に高い分解能が得られる。半減期の短い稀少同位体でも「飛行中」に測定できるため、原子核の大きさや形、電磁気的性質といったスペクトルに現れる微小な差(同位体シフトや超微細構造)を捉えられ、原子核構造研究の有力な手段となる。

赤外分光(IR spectroscopy)

分子は特定の波長の赤外光を吸収して振動し、その吸収パターンは分子ごとに固有の「指紋」となります。赤外分光はこの吸収を測定し、物質の種類・構造・状態を調べる手法です。近年は波長や強度を精密に制御した複数のレーザーを組み合わせることで、分子が異なる立体構造(配座)へ移り変わる様子まで捉えられるようになりました。化学反応の途中経過の観察やガス成分の分析など、基礎研究から産業計測まで幅広く使われます。

量子光学

量子もつれ(エンタングルメント)

2つ以上の光子や粒子が、それぞれ単独では状態が決まらず、全体として一つの状態を共有している量子特有の現象です。一方を測定すると、どれだけ離れていても他方の状態が瞬時に定まるという、古典物理では説明できない強い相関を示します。アインシュタインが「不気味な遠隔作用」と呼んだこの性質は、現在では量子コンピューター、量子暗号、量子テレポーテーション、量子センサーなど、次世代量子技術すべての基盤となる重要な資源です。

単一光子源

光子を一度に1個ずつ、要求に応じて確実に放出できる光源です。通常のレーザーやランプの光は含まれる光子数がばらつきますが、単一光子源は「1個だけ」を高い確率で保証できる点が決定的に異なります。これは量子暗号で安全性の鍵を握り、また光を使った量子計算では情報を運ぶ「量子ビット」の担い手となります。実現方式には半導体量子ドット、ダイヤモンド中の欠陥(NVセンター)、非線形結晶を使うものなどがあり、明るさ・純度・光子どうしの識別不能性の向上が研究の焦点です。

量子ドット

直径が数nm〜数十nm程度の、非常に小さな半導体の粒です。電子がこの微小な空間に閉じ込められることで、粒のサイズを変えるだけで発光する色(波長)を自在に制御できます。明るく安定した発光が得られるため、ディスプレイの色再現や太陽電池、バイオ標識に使われるほか、量子技術の分野ではオンデマンドの単一光子源やもつれ光子源として重要です。近年は光ファイバー通信に適した波長で動作する量子ドットの開発も進んでいます。

量子鍵配送(QKD)

単一光子などの量子状態に情報を載せて、暗号通信に使う「鍵」を離れた二者間で安全に共有する技術です。量子の状態は観測すると必ず乱れるという性質を利用しており、もし盗聴者が途中で光子を覗き見ると、その痕跡がエラーとして検出されます。これにより、原理的に盗聴を見破れる通信を実現します。すでに光ファイバーや人工衛星を介した実証が各国で進んでおり、金融・政府・重要インフラなど高い秘匿性が求められる分野での実用化が期待されています。

GHZ状態・W状態

いずれも3個以上の粒子が関わる代表的な多粒子もつれの形です。GHZ状態は全ての粒子が足並みをそろえて相関し、1個でも測定すると残り全体の状態が一気に確定する一方、1個でも失うともつれが完全に壊れます。対してW状態は、一部の粒子を失っても残りにもつれが残る「頑健さ」を持ちます。両者は性質が大きく異なり、量子計算や量子通信での使い道も変わるため、目的に応じてどちらの状態を作り、また見分けるかが重要になります。

量子テレポーテーション

物体そのものを運ぶのではなく、ある粒子が持つ「量子状態」だけを、あらかじめ共有しておいた量子もつれを使って離れた場所の別の粒子へ転送する技術です。元の状態は転送の過程で必ず壊れるため、コピー(複製)ではなく移動である点が特徴です。SFのような瞬間移動とは異なり、状態を再現するには別途、古典的な通信路で補助情報を送る必要があります。長距離の量子通信網(量子インターネット)や、量子コンピューター同士を結ぶ基本技術として研究が進められています。

光量子コンピュータ

光子(光の粒)を量子ビットや計算の担い手として使う量子コンピュータ。多数の単一光子を導波路やビームスプリッタで干渉させ、その統計的なふるまい(ボソンサンプリングなど)から古典計算機では困難な問題を解く。超伝導方式のような極低温冷却を必要とせず室温で動作でき、コヒーレンス時間が長くノイズが少ないうえ、既存の光ファイバ網や量子通信と直接つなげるのが利点。中国の「九章」シリーズなどが代表例で、集積フォトニクスによる大規模化と実用化が進められている。

光ピンセット(optical tweezers)

強く絞ったレーザー光の焦点付近に働く微弱な力で、微粒子や原子・分子を非接触で捕まえて自在に動かす技術です。焦点へ引き寄せる力が生じるため、光の「ピンセット」として細胞や1個の原子を保持できます。多数の焦点を並べれば原子を格子状に整列させることもでき、リュードベリ原子を用いる量子コンピュータでは、各原子を数マイクロメートル間隔で正確に保持する基盤技術として使われます。2018年のノーベル物理学賞の対象にもなりました。

軌道角運動量(OAM)

光には、偏光に対応する「スピン角運動量」に加えて、波面がらせん状にねじれることで生じる「軌道角運動量(OAM)」があります。OAMはねじれの向きと回数(整数の位相チャージ)で区別でき、原理的に無数の状態をとれるため、1つの光ビームに多くの情報を載せる多重通信や、微粒子を回す光ピンセット、高感度なセンシングなどに使われます。スピンと軌道の両方を制御する構造化光は、量子通信やキラル計測の新しい手段としても注目されています。

その他(光学全般)

メタレンズ/メタサーフェス

光の波長より小さなナノ構造(ナノアンテナ)を平面に規則正しく並べ、通過する光の位相を場所ごとに細かく制御する超薄型の光学素子です。これにより、これまで分厚い曲面ガラスで行っていた集光や結像を、髪の毛より薄いフィルム状の平面で実現できます。こうした素子の組み合わせ全体をメタサーフェスと呼びます。スマートフォンのカメラやARグラス、内視鏡、各種センサーの小型化・軽量化につながると期待され、安価な量産技術の確立が実用化の鍵になっています。

バレートロニクス

電子が持つ「電荷」や「スピン」に加えて、結晶中のエネルギー構造に現れる谷(バレー)という自由度に情報を載せて利用する技術です。特に原子1〜数層の厚みしかない二次元材料では、特定の円偏光を当てることで狙った谷の電子だけを選んで励起でき、光と電子情報をなめらかに橋渡しできます。電荷を大きく動かさずに情報を扱えるため、消費電力が小さく高速な次世代の情報処理や、光を使った演算・量子技術への応用が期待されています。

光共振器とQ値

鏡やリング状の構造で光を狭い領域に閉じ込め、何度も往復・蓄積させる仕組みが光共振器です。その閉じ込めの良さ(エネルギーの失われにくさ)を表す指標がQ値で、Q値が高いほど光が長くとどまり、損失が小さいことを意味します。Q値が高い共振器では、弱い光でも強い光と物質の相互作用を引き出せるため、高感度センサー、狭線幅レーザー、波長変換、単一光子源など幅広い応用で性能を左右します。微小な共振器で極めて高いQ値を得る研究が活発に進められています。

コロナグラフ

恒星のまぶしい光を選択的に遮り、そのすぐ近くにある暗い天体(系外惑星など)を見えるようにする光学装置です。望遠鏡の焦点面や瞳面にマスクや位相板を配置し、中心星の光を打ち消す一方で、わずかに離れた惑星の光は通します。系外惑星の直接撮像や太陽コロナの観測に用いられ、中心星の数十億分の一という微弱な光を捉えるため、鏡面の形状安定性や波面補正が精度を大きく左右します。

表面プラズモン(表面プラズモンポラリトン)

金属と誘電体の界面で、光の電磁波と金属中の自由電子の集団振動が結びついて生じ、界面に沿って伝わる波です。英語ではsurface plasmon polariton(SPP)と呼ばれます。光を回折限界より小さな領域に閉じ込められるため、微小な光デバイスやセンサー、高感度な分光に利用されます。ナノ加工した表面形状で伝わり方や散乱を制御でき、光を作る・解析する両方向デバイスなど新しい撮像・表示技術への応用も探られています。

偏光(polarization)

光(電磁波)の電場が振動する向きの偏り。自然光はあらゆる方向に振動するが、特定方向にそろったものを直線偏光、らせん状に回転するものを円偏光という。光が物質の表面や内部を通ると偏光状態が変化するため、応力・厚み・分子の配向・表面の材質といった情報を担う。偏光板や波長板で制御でき、液晶ディスプレイや光学顕微鏡のコントラスト強調、LiDARによる材質判別、量子光学における光子の量子ビットなど、計測から情報処理まで幅広く利用される。

回折光ニューラルネットワーク(diffractive network)

学習で最適化した複数の回折層(透過型の位相板)を光が通過する間に、光の伝搬そのものが行列演算のように情報処理を行う光学式の推論システム。電力をほとんど使わず、光速で画像分類や像の復元などを実行できる。層のパターンは計算機で設計し、3Dプリントやリソグラフィで作製する。散乱媒質越しのイメージングや光通信などへの応用が研究されている。

アト秒(attosecond)

アト秒は10⁻¹⁸秒(100京分の1秒)という極めて短い時間の単位。1アト秒と1秒の比は、およそ1秒と宇宙の年齢の比に等しい。原子・分子の内部で電子はこの時間スケールで運動するため、アト秒精度の超短光パルスや計測技術は、電子のダイナミクスを直接「スローモーション」で観察・制御する鍵となる。超高速分光や次世代エレクトロニクスに向けた基礎研究を支えている。