フォトニクス用語解説

当社のフォトニクス最新ニュースに登場する専門用語を、平易な日本語でまとめた解説集です。各ニュースカードの用語から、このページの該当項目にリンクしています。

レーザー顕微鏡

iSCAT(干渉散乱顕微鏡)

試料で散乱したごく弱い光を、別途用意した参照光と干渉させて検出する顕微鏡法です。蛍光色素による標識を必要とせず、ナノ粒子・ウイルス・タンパク質・細胞膜などの微細構造を高い感度で捉えられます。散乱光は対象が小さいほど弱くなりますが、干渉によって信号を実質的に増幅できるため、ごくわずかな量の物質でも観察可能です。照射する光のパワーを抑えられるので、色素の褪色や光毒性が問題になる生きた細胞を、長時間にわたり繰り返し観察できる点も大きな利点です。

超解像顕微鏡(SIM・STEDなど)

光が波である以上避けられない「回折限界」(可視光でおよそ200nm)を超えて、より細かい構造を見分ける顕微鏡技術の総称です。代表例として、複数の縞模様の照明を重ね合わせ計算で分解能を高める構造化照明顕微鏡(SIM)や、ドーナツ状のレーザーで発光する領域を絞り込む誘導放出抑制(STED)などがあります。これらにより、従来の光学顕微鏡では一点に見えていた細胞内のタンパク質や小器官を、数十nm級で個別に観察できます。生命科学から材料研究まで幅広く使われています。

画像走査顕微鏡(ISM)

共焦点顕微鏡を発展させた手法で、1点ごとの光を単一の検出器ではなく小さなアレイ(複数画素)の検出器で受け取ります。得られた画素をわずかにずらして再配置(ピクセルリアサイン)することで、分解能と信号対雑音比(S/N)を同時に高められます。従来の共焦点顕微鏡より明るく、かつ高解像な像が得られるのが特徴です。レーザー走査と組み合わせて生きた細胞のイメージングなどに用いられ、近年は手軽な超解像手法の一つとしても注目されています。

無標識(ラベルフリー)イメージング

蛍光色素や金属コロイドといった標識(ラベル)を使わず、試料そのものが持つ光学的な性質(散乱・屈折率・位相・偏光など)を手がかりに観察する手法の総称です。標識作業が要らないため試料を傷めにくく、色素由来の光毒性や、時間とともに発光が弱まる褪色の問題も避けられます。これにより、生きた細胞や組織を本来の状態に近いまま、長時間観察できます。iSCATや位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡などが代表的な無標識法です。

クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)

電子線を使って生体分子の立体構造を調べる手法がクライオ電子顕微鏡(cryo-EM)です。試料を急速凍結し、低い電子線量で多数の分子を撮影して計算機で重ね合わせることで、タンパク質などの3次元構造を高い分解能で求めます。X線結晶構造解析と違い結晶を作る必要がない一方、小さな分子はコントラスト(明暗の差)が不足して鮮明に写しにくいという課題がありました。近年はレーザーで電子線の位相をずらす「位相板」など、コントラストを高める工夫が進んでいます。

ライトシート顕微鏡(light-sheet microscopy)

試料を薄いシート状の光で横から照らし、その照明面だけを励起して直交方向のカメラで一気に撮像する顕微鏡法です。点ごとに走査する共焦点顕微鏡と違い面を一度に捉えるため高速で、光が当たる範囲が狭く退色や光毒性を抑えられます。透明化処理した組織や生きた胚など厚みのある試料を、低ダメージで長時間にわたり三次元観察できるのが特長です。神経回路の全脳マッピングや発生生物学、3D病理など、広い分野で活用が進んでいます。

光コヒーレンストモグラフィー(OCT)

近赤外光の干渉を利用して、生体組織などの断面を非侵襲・無標識で高解像度に3D撮像する技術。造影剤を使わず、光の後方散乱が戻るまでの遅延(干渉)を測ることで深さ方向の構造を可視化する。眼科の網膜検査で広く使われ、皮膚科や血管内診断などへも応用が広がる。分解能は数µm程度で、ミリ単位の深さまで断層像が得られるのが特長。

蛍光寿命イメージング(FLIM)

蛍光色素が光を吸収してから再放出するまでの「寿命」(ナノ秒オーダー)を画素ごとに測って画像化する手法。蛍光の明るさではなく寿命を使うため、色素濃度や退色の影響を受けにくく、周囲のpH・イオン濃度・分子間相互作用(FRETなど)といった微小環境を定量的に捉えられる。生体組織の無標識診断や細胞内代謝の可視化などに応用される。

マルチモードファイバイメージング

1本の細いマルチモード光ファイバに光を通すと、内部で多数のモードが干渉して複雑な斑点模様(スペックル)になります。マルチモードファイバイメージングは、このスペックルと元の像の対応をあらかじめ校正するか、深層学習で学習しておくことで、ファイバ先端に届いた像を1本のファイバだけで復元する技術です。レンズを付けずに髪の毛ほどの細さで体内の狭い場所まで届くため、内視鏡やニューロイメージングなど低侵襲な観察への応用が進んでいます。

蛍光バイオセンサー(fluorescent biosensor)

細胞の中で起きている化学反応を、蛍光の強さや色の変化に置き換えて見えるようにするタンパク質性のセンサーです。目的の分子と結合したり、酵素によって形が変わったりすると蛍光の出方が変わる仕組みで、カルシウム濃度やcAMP・cGMPといった情報伝達物質、キナーゼの活性などを生きた細胞のまま追跡できます。活性が上がると明るくなるポジティブ型のほかに、逆に暗くなるネガティブ型もあり、後者は背景と区別しにくいという課題がありました。顕微鏡と組み合わせることで、細胞内のどこで反応が起きているかという空間の情報まで得られます。

圧縮センシング(compressed sensing)

測定したいデータの点数より少ない観測から、元の信号を推定して復元する考え方です。対象が「少数の成分だけで表せる」といった性質を持つ場合に、意図的に情報を混ぜて記録し、計算で分離・復元します。光学では、符号化した点像分布関数や位相マスクで光を広げて記録し、あとから逆問題として解くことで、センサーの隙間を埋めたり撮影回数を減らしたりする用途に使われます。復元にはアルゴリズムと計算時間が必要で、前提が成り立たない場合は誤差が出る点に注意が要ります。

アップコンバージョン(upconversion)

エネルギーの低い光(多くは近赤外光)を複数回吸収し、より波長の短い光として放出する現象をアップコンバージョンといいます。希土類イオンを添加したナノ粒子でよく用いられ、近赤外の連続光で励起できるため、生体試料の自家蛍光や光損傷が少ないという利点があります。有機色素に比べて褪色しにくく、長時間の観察にも向きます。粒子の組成を調整することで発光が自発的に点滅する性質を持たせることもでき、1分子ごとの位置を推定する超解像顕微鏡の標識としての利用が報告されています。

定量位相イメージング

ガラスや生きた細胞のように、光をほとんど吸収せず明暗の差が出ない物体でも、通り抜けた光の「位相」はわずかにずれます。このずれを測って像にするのが定量位相イメージングです。染色や蛍光標識をしなくても細胞の形や厚み、屈折率の分布を数値として得られるため、生きたままの細胞観察や、半導体・ディスプレイの透明部材の検査に使われます。位相は光の強度としては直接測れないので、干渉やホログラフィー、あるいは計算による復元と組み合わせて求めるのが一般的です。

レーザー分光

周波数コム

光の周波数が、櫛の歯のように等間隔で何万本も並んだ特殊なレーザー光源です。各歯の周波数が極めて精密に分かっているため、未知の光の周波数や波長を測る「物差し」として機能します。2005年のノーベル物理学賞の対象となった技術で、超精密な分光分析、原子時計などの時刻・周波数標準、距離計測、さらには天文観測まで幅広く応用されています。近年は光チップ上に小型化する研究も進み、装置の卓上化・実用化が加速しています。

デュアルコム分光

繰り返し周波数がほんのわずかに異なる2つの周波数コムを重ね合わせ、その干渉(うなり)を測ることで分子の吸収スペクトルを得る手法です。プリズムや回折格子、機械的に動く部品を一切使わずに、広い波長範囲を高速かつ高分解能で一度に測定できるのが最大の特長です。ガス成分の分析や大気・環境モニタリング、呼気による健康診断などに応用され、従来の分光器では難しかった短時間・高精度の計測を可能にします。

ラマン分光

試料にレーザー光を当てたとき、分子の振動とエネルギーをやり取りして波長(色)がわずかにずれて戻ってくる散乱光(ラマン散乱)を分析する手法です。ずれの大きさは分子の種類や結合状態に固有なので、物質の「指紋」として組成や構造を非接触・非破壊で同定できます。前処理がほとんど不要で固体・液体・気体のいずれにも使えるため、製薬、半導体、食品、地質、美術品の分析など、基礎研究から製造現場の品質管理まで幅広く利用されています。

テラヘルツ分光

電波と赤外線の中間にあたる、周波数およそ0.1〜10THz(波長3mm〜30μm)の電磁波を使う分光法です。この帯域は分子の回転運動や結晶格子の振動、生体高分子の集団的な動きに対応しており、他の手法では捉えにくい情報を得られます。テラヘルツ波は紙・布・プラスチックを透過する一方で人体に電離作用を及ぼさないため、非破壊検査、危険物や医薬品の検査、セキュリティ検査、材料評価などへの応用が期待されています。

拡散光計測(拡散光トモグラフィ)

生体組織のように光を強く散乱する媒質へ近赤外光を入れ、内部で何度も散乱して出てきた光を測ることで、組織の吸収・散乱特性や内部構造を推定する手法です。ヘモグロビン濃度や血中酸素などの情報を非侵襲で得られるため、脳機能計測や乳がん検査などに応用されます。散乱が支配的な領域を扱う点が単純な透過イメージングと異なり、卵殻のように光を閉じ込める構造の研究とも関わります。

コリニアレーザー分光

加速器で作った原子・イオンのビームと、レーザー光を同じ一直線(コリニア=共軸)に重ねて行うレーザー分光。ビームを高速に走らせることで速度のばらつきによる周波数の広がり(ドップラー幅)が圧縮され、非常に高い分解能が得られる。半減期の短い稀少同位体でも「飛行中」に測定できるため、原子核の大きさや形、電磁気的性質といったスペクトルに現れる微小な差(同位体シフトや超微細構造)を捉えられ、原子核構造研究の有力な手段となる。

赤外分光(IR spectroscopy)

分子は特定の波長の赤外光を吸収して振動し、その吸収パターンは分子ごとに固有の「指紋」となります。赤外分光はこの吸収を測定し、物質の種類・構造・状態を調べる手法です。近年は波長や強度を精密に制御した複数のレーザーを組み合わせることで、分子が異なる立体構造(配座)へ移り変わる様子まで捉えられるようになりました。化学反応の途中経過の観察やガス成分の分析など、基礎研究から産業計測まで幅広く使われます。

ブリルアン散乱(Brillouin scattering)

物質中を伝わる音波(音響フォノン)によって光が散乱され、光の周波数がごくわずかにずれる現象です。ずれの大きさは物質の硬さや粘弾性を反映するため、これを利用したブリルアン分光・ブリルアン顕微鏡は、試料に触れず無標識で力学的な性質を調べる手法として、細胞や組織の評価、材料研究で注目されています。光ファイバー中では誘導ブリルアン散乱として強く現れ、光の増幅やフィルタリング、分布型の温度・ひずみセンシング、光と音波を結び付ける信号処理にも利用されます。

時間分解分光(ポンプ・プローブ分光)

物質に「ポンプ光」と呼ぶ短い光パルスを当てて状態を変化させ、少し遅らせて当てる「プローブ光」でその瞬間の様子を測る分光法です。ポンプとプローブの時間差を少しずつ変えながら測定を繰り返すと、光を吸収した直後に起こる電子や分子のごく速い変化を、フェムト秒(1000兆分の1秒)単位の時間分解能で追跡できます。反射・透過・光電子放出(ARPES)など測る量に応じて多くの派生手法があり、光で誘起される短寿命の状態や化学反応の途中経過を捉える手段として、材料科学や化学、量子物性の研究で広く使われています。

四光波混合(FWM)

物質に複数の波長の光を同時に入れたとき、光と物質の非線形な応答によって元にはなかった新しい波長の光が生まれる現象です。3つの光波が関わって4つ目の波が現れることからこの名前があります。光ファイバ通信では隣り合うチャネル同士が混ざる雑音の原因になる一方、狙って使えば波長変換や光増幅、量子もつれ光子対の発生に利用できます。近年は、赤外の信号光を可視域へ変換して安価なシリコンカメラで撮像する、散乱の強い生体組織の観察といった応用も報告されています。

光電子分光(photoelectron spectroscopy)

試料に紫外線やX線を当て、飛び出してきた電子(光電子)のエネルギーと運動量を測ることで、物質の中で電子がどのような状態にあるかを調べる手法です。飛び出す向きごとに分けて測る角度分解型では、分子軌道やバンド構造の形を運動量空間の地図として得ることができます。超短パルス光源と組み合わせると、光を当てた直後に電子がどう動くかを時間を追って観測できます。ただし得られるのは電子の存在確率にあたる情報で、位相の情報は直接には得られないため、数値アルゴリズムで補って実空間の像を再構成する研究も行われています。

ハイパースペクトルイメージング(hyperspectral imaging)

画像の1画素ごとに、色を数十から数百の波長帯に細かく分けたスペクトルを記録する撮像法です。ふつうのカメラが赤・緑・青の3色にまとめてしまう情報を波長軸に沿って保つため、見た目が似ている物質でも、含まれる成分の違いによる反射や蛍光のスペクトルの差から区別できます。農作物や食品の検査、リモートセンシング、医療分野の組織の判別などに使われ、顕微鏡や内視鏡と組み合わせた装置もあります。データ量が大きく、撮像に時間がかかりやすいため、走査方式や光源の選び方、解析アルゴリズムが実用上の要点になります。

スーパーコンティニウム

短いパルスレーザーの光を非線形性の強い光ファイバーなどに通すと、光と物質の相互作用によって波長成分が次々と生まれ、もとの単色光が虹のように連続した広い帯域の光へ広がります。これをスーパーコンティニウム(超連続光)と呼び、「白色レーザー」とも呼ばれます。レーザーの指向性と明るさを保ったまま幅広い波長を一度に使えるため、分光分析やガス検知、光コヒーレンストモグラフィーなどの光源として利用されます。一般に帯域を広げるほど強度のゆらぎ(雑音)が増えやすく、その両立が課題とされています。

量子光学

量子もつれ(エンタングルメント)

2つ以上の光子や粒子が、それぞれ単独では状態が決まらず、全体として一つの状態を共有している量子特有の現象です。一方を測定すると、どれだけ離れていても他方の状態が瞬時に定まるという、古典物理では説明できない強い相関を示します。アインシュタインが「不気味な遠隔作用」と呼んだこの性質は、現在では量子コンピューター、量子暗号、量子テレポーテーション、量子センサーなど、次世代量子技術すべての基盤となる重要な資源です。

単一光子源

光子を一度に1個ずつ、要求に応じて確実に放出できる光源です。通常のレーザーやランプの光は含まれる光子数がばらつきますが、単一光子源は「1個だけ」を高い確率で保証できる点が決定的に異なります。これは量子暗号で安全性の鍵を握り、また光を使った量子計算では情報を運ぶ「量子ビット」の担い手となります。実現方式には半導体量子ドット、ダイヤモンド中の欠陥(NVセンター)、非線形結晶を使うものなどがあり、明るさ・純度・光子どうしの識別不能性の向上が研究の焦点です。

量子ドット

直径が数nm〜数十nm程度の、非常に小さな半導体の粒です。電子がこの微小な空間に閉じ込められることで、粒のサイズを変えるだけで発光する色(波長)を自在に制御できます。明るく安定した発光が得られるため、ディスプレイの色再現や太陽電池、バイオ標識に使われるほか、量子技術の分野ではオンデマンドの単一光子源やもつれ光子源として重要です。近年は光ファイバー通信に適した波長で動作する量子ドットの開発も進んでいます。

量子鍵配送(QKD)

単一光子などの量子状態に情報を載せて、暗号通信に使う「鍵」を離れた二者間で安全に共有する技術です。量子の状態は観測すると必ず乱れるという性質を利用しており、もし盗聴者が途中で光子を覗き見ると、その痕跡がエラーとして検出されます。これにより、原理的に盗聴を見破れる通信を実現します。すでに光ファイバーや人工衛星を介した実証が各国で進んでおり、金融・政府・重要インフラなど高い秘匿性が求められる分野での実用化が期待されています。

GHZ状態・W状態

いずれも3個以上の粒子が関わる代表的な多粒子もつれの形です。GHZ状態は全ての粒子が足並みをそろえて相関し、1個でも測定すると残り全体の状態が一気に確定する一方、1個でも失うともつれが完全に壊れます。対してW状態は、一部の粒子を失っても残りにもつれが残る「頑健さ」を持ちます。両者は性質が大きく異なり、量子計算や量子通信での使い道も変わるため、目的に応じてどちらの状態を作り、また見分けるかが重要になります。

量子テレポーテーション

物体そのものを運ぶのではなく、ある粒子が持つ「量子状態」だけを、あらかじめ共有しておいた量子もつれを使って離れた場所の別の粒子へ転送する技術です。元の状態は転送の過程で必ず壊れるため、コピー(複製)ではなく移動である点が特徴です。SFのような瞬間移動とは異なり、状態を再現するには別途、古典的な通信路で補助情報を送る必要があります。長距離の量子通信網(量子インターネット)や、量子コンピューター同士を結ぶ基本技術として研究が進められています。

光量子コンピュータ

光子(光の粒)を量子ビットや計算の担い手として使う量子コンピュータ。多数の単一光子を導波路やビームスプリッタで干渉させ、その統計的なふるまい(ボソンサンプリングなど)から古典計算機では困難な問題を解く。超伝導方式のような極低温冷却を必要とせず室温で動作でき、コヒーレンス時間が長くノイズが少ないうえ、既存の光ファイバ網や量子通信と直接つなげるのが利点。中国の「九章」シリーズなどが代表例で、集積フォトニクスによる大規模化と実用化が進められている。

光ピンセット(optical tweezers)

強く絞ったレーザー光の焦点付近に働く微弱な力で、微粒子や原子・分子を非接触で捕まえて自在に動かす技術です。焦点へ引き寄せる力が生じるため、光の「ピンセット」として細胞や1個の原子を保持できます。多数の焦点を並べれば原子を格子状に整列させることもでき、リュードベリ原子を用いる量子コンピュータでは、各原子を数マイクロメートル間隔で正確に保持する基盤技術として使われます。2018年のノーベル物理学賞の対象にもなりました。

軌道角運動量(OAM)

光には、偏光に対応する「スピン角運動量」に加えて、波面がらせん状にねじれることで生じる「軌道角運動量(OAM)」があります。OAMはねじれの向きと回数(整数の位相チャージ)で区別でき、原理的に無数の状態をとれるため、1つの光ビームに多くの情報を載せる多重通信や、微粒子を回す光ピンセット、高感度なセンシングなどに使われます。スピンと軌道の両方を制御する構造化光は、量子通信やキラル計測の新しい手段としても注目されています。

中性原子(neutral atom)

電気的に中性な原子を1個ずつレーザーの「光ピンセット」で捕まえ、真空中に規則正しく並べて量子ビットとして使う方式。イオン方式と違って電荷による反発がなく、数百〜数千個規模へ拡張しやすいのが特長で、中性原子量子コンピュータの基盤として注目される。ルビジウムやイッテルビウムなどが用いられ、レーザーで内部状態を操作して演算や量子もつれを作る。原子を長寿命の準安定状態に置くと、誤りを「どの原子が壊れたか分かる」形(消失誤り)に設計でき、量子誤り訂正を効率化できる点も研究が進む。

例外点(exceptional point)

光の増幅と損失(利得と減衰)を併せ持つ系などで現れる特別な状態で、通常は別々に扱える複数の振動モードが、固有値だけでなく振動の形(固有状態)まで完全に一致してしまう点をいいます。この点の近くでは系がわずかな変化にも非常に敏感に反応するため、高感度センサーやレーザーの動作制御、光の一方向伝搬などへの応用が研究されています。数学的には行列が対角化できなくなる特異な状況に対応し、増幅・損失を扱う「非エルミート物理」の中心概念のひとつです。

合成次元(synthetic dimension)

光の周波数や時間、モード番号など、実空間の位置ではない自由度を、別の次元の座標のように扱う考え方です。たとえば光ファイバのリング共振器を周回する光の縦モード列を格子とみなし、電気光学変調器で隣り合うモード間を結合させると、1本のリングだけで多次元の格子模型を再現できます。装置を大きくせずに次元や結合の仕方を電気的に変えられるため、トポロジカルな効果や合成ゲージ場の模擬実験に用いられています。

NVセンター(ダイヤモンド量子センサー)

ダイヤモンド結晶中で、炭素が抜けた空孔(V)と置換した窒素(N)が隣り合ってできる複合欠陥です。ここに捕らわれた電子スピンは室温でも量子状態を保ちやすく、緑色レーザーで初期化し、マイクロ波を加えながら赤色蛍光の強度を読み取ることで、磁場・電場・温度などをきわめて高い感度で測定できます。細胞内の温度計測やスピン波の可視化、電流の精密校正まで応用が広がっており、「量子センシング」を支える代表的な素子として研究開発が進んでいます。

その他(光学全般)

メタレンズ/メタサーフェス

光の波長より小さなナノ構造(ナノアンテナ)を平面に規則正しく並べ、通過する光の位相を場所ごとに細かく制御する超薄型の光学素子です。これにより、これまで分厚い曲面ガラスで行っていた集光や結像を、髪の毛より薄いフィルム状の平面で実現できます。こうした素子の組み合わせ全体をメタサーフェスと呼びます。スマートフォンのカメラやARグラス、内視鏡、各種センサーの小型化・軽量化につながると期待され、安価な量産技術の確立が実用化の鍵になっています。

バレートロニクス

電子が持つ「電荷」や「スピン」に加えて、結晶中のエネルギー構造に現れる谷(バレー)という自由度に情報を載せて利用する技術です。特に原子1〜数層の厚みしかない二次元材料では、特定の円偏光を当てることで狙った谷の電子だけを選んで励起でき、光と電子情報をなめらかに橋渡しできます。電荷を大きく動かさずに情報を扱えるため、消費電力が小さく高速な次世代の情報処理や、光を使った演算・量子技術への応用が期待されています。

光共振器とQ値

鏡やリング状の構造で光を狭い領域に閉じ込め、何度も往復・蓄積させる仕組みが光共振器です。その閉じ込めの良さ(エネルギーの失われにくさ)を表す指標がQ値で、Q値が高いほど光が長くとどまり、損失が小さいことを意味します。Q値が高い共振器では、弱い光でも強い光と物質の相互作用を引き出せるため、高感度センサー、狭線幅レーザー、波長変換、単一光子源など幅広い応用で性能を左右します。微小な共振器で極めて高いQ値を得る研究が活発に進められています。

コロナグラフ

恒星のまぶしい光を選択的に遮り、そのすぐ近くにある暗い天体(系外惑星など)を見えるようにする光学装置です。望遠鏡の焦点面や瞳面にマスクや位相板を配置し、中心星の光を打ち消す一方で、わずかに離れた惑星の光は通します。系外惑星の直接撮像や太陽コロナの観測に用いられ、中心星の数十億分の一という微弱な光を捉えるため、鏡面の形状安定性や波面補正が精度を大きく左右します。

表面プラズモン(表面プラズモンポラリトン)

金属と誘電体の界面で、光の電磁波と金属中の自由電子の集団振動が結びついて生じ、界面に沿って伝わる波です。英語ではsurface plasmon polariton(SPP)と呼ばれます。光を回折限界より小さな領域に閉じ込められるため、微小な光デバイスやセンサー、高感度な分光に利用されます。ナノ加工した表面形状で伝わり方や散乱を制御でき、光を作る・解析する両方向デバイスなど新しい撮像・表示技術への応用も探られています。

偏光(polarization)

光(電磁波)の電場が振動する向きの偏り。自然光はあらゆる方向に振動するが、特定方向にそろったものを直線偏光、らせん状に回転するものを円偏光という。光が物質の表面や内部を通ると偏光状態が変化するため、応力・厚み・分子の配向・表面の材質といった情報を担う。偏光板や波長板で制御でき、液晶ディスプレイや光学顕微鏡のコントラスト強調、LiDARによる材質判別、量子光学における光子の量子ビットなど、計測から情報処理まで幅広く利用される。

回折光ニューラルネットワーク(diffractive network)

学習で最適化した複数の回折層(透過型の位相板)を光が通過する間に、光の伝搬そのものが行列演算のように情報処理を行う光学式の推論システム。電力をほとんど使わず、光速で画像分類や像の復元などを実行できる。層のパターンは計算機で設計し、3Dプリントやリソグラフィで作製する。散乱媒質越しのイメージングや光通信などへの応用が研究されている。

ゴーストイメージング(ghost imaging)

2本の光束の相関を利用して像を再構成する計算イメージングの手法。ランダムなパターンをもつ参照光は物体に当てずに画素の細かい検出器で記録し、物体を通った光は空間分解能をもたない検出器で全体の強度だけを測る。単独ではどちらも像にならないが、多数回の測定にわたって両者の相関を計算すると物体の像が浮かび上がる。物体に当てる光量がごくわずかで済むため、X線では被曝線量の低減、可視・赤外では微弱光や散乱環境での撮像に向くとされる。近年は合成開口や圧縮センシング、深層学習と組み合わせ、少ない測定回数で高い解像度を得る研究が進んでいる。

アト秒(attosecond)

アト秒は10⁻¹⁸秒(100京分の1秒)という極めて短い時間の単位。1アト秒と1秒の比は、およそ1秒と宇宙の年齢の比に等しい。原子・分子の内部で電子はこの時間スケールで運動するため、アト秒精度の超短光パルスや計測技術は、電子のダイナミクスを直接「スローモーション」で観察・制御する鍵となる。超高速分光や次世代エレクトロニクスに向けた基礎研究を支えている。

エバネッセント場(evanescent field)

光ファイバーや導波路の中を進む光の一部は、外側の表面からごくわずか(波長程度)にじみ出しています。この、伝わらずにその場に染み出して指数関数的に減衰する光の場をエバネッセント場と呼びます。極細の光ナノファイバーでは、この染み出しが相対的に大きくなり、ファイバー外側の原子や分子と光を強く相互作用させられます。原子の捕捉・冷却やセンシング、全反射蛍光顕微鏡(TIRF)などで、表面のごく近くだけを選んで観察・操作する目的に使われます。

構造光(structured light)

光の強度・位相・偏光を、ビームの断面内で場所ごとに設計した光のことです。単純に一様な光ではなく、渦状の位相や、場所ごとに向きが変わる偏光パターンなどを与えます。もともとは量子光学や光渦の研究で発展しましたが、現在は顕微鏡の解像度向上、精密計測、光通信の多重化、光操作などにも応用が広がっています。対象物の構造や対称性に合わせて光の形を設計できる点が特長です。

フォトダイオード(受光素子)

光を電気信号に変換する半導体素子です。光が当たると内部で電子と正孔が生じ、電流として取り出せます。光通信の受信側やセンサー、計測機器の心臓部にあたる部品で、近赤外の光通信波長ではInGaAs(インジウムガリウムヒ素)系がよく使われます。性能は、どれだけ高速な信号に追従できるかを示す「帯域」と、光をどれだけ効率よく電流に変えるかを示す「受光感度(A/W)」で表され、この二つを両立させることが設計上の要点になります。

波長分割多重(WDM)

1本の光ファイバーに、波長(色)の異なる光信号を何本も重ねて同時に流す方式です。波長ごとに独立した通信路として扱えるため、ファイバーを新たに敷設しなくても伝送容量を増やせます。現在の商用システムはおもにC帯(1,530〜1,565nm)とL帯(1,565〜1,625nm)を使いますが、O帯・E帯・S帯まで広げる研究が進んでおり、そのためには各帯域で働く光増幅器(ビスマス添加・ツリウム添加ファイバ増幅器など)が必要になります。使える帯域幅とチャネル数が容量を左右します。

スローライト(slow light)

媒質や光共振器の働きで、光パルスが伝わる速さ(群速度)を通常より大きく遅くする現象・技術。光は真空中では一定の速さで進むため、光信号を一時的に蓄える「バッファ」や「メモリ」を作るのが難しく、スローライトはその実現手段として光通信・光コンピューティングで重要になる。結合した複数の光共振器の干渉(CRIT=結合共振器誘起透過)などを用い、特定の波長域の光を選んで通しつつ遅延させる。遅延量を作製後に固定せず動作中に再構成できれば、可変遅延線や信号同期、周波数変換を1つのチップに集約でき、省電力な光処理につながる。

励起子(エキシトン/exciton)

半導体や絶縁体に光が当たると電子が持ち上げられ、その抜け跡に正の電荷をもつ「正孔」が残ります。この電子と正孔がクーロン力で引き合って対になった状態が励起子です。原子のように束縛されたひとまとまりとして振る舞い、材料に固有のエネルギーで光を吸収・放出するため、発光素子や光検出、太陽電池の特性を左右します。原子数層の二次元材料では電子と正孔の距離が近く束縛が強いため、室温でも比較的安定に存在し、磁性やスピンの状態と結び付けた研究も進んでいます。

磁気光学効果(magneto-optical effect)

磁石の性質をもつ物質に光を通したり反射させたりすると、偏光の向きが回るなど、光の状態が磁化の向きに応じて変わります。これを磁気光学効果と呼び、透過で偏光が回るものをファラデー効果、反射で回るものをカー効果といいます。磁化の向きを光で読み取れるため、磁気記録の読み出しや磁性材料の観察、一方向にだけ光を通す光アイソレータなどに使われます。近年は逆に、超短パルス光で磁化そのものを書き換える研究も進み、電流を用いない高速・低消費電力の記録方式として注目されています。

レーザー溶接(laser welding)

レーザー光をレンズで小さな点に集め、その一点に集中した熱で材料を溶かして接合する加工法です。接着剤や中間材を使わずに母材どうしを直接つなげるため、不純物が入りにくく、加熱範囲が狭いので周囲への熱の影響も抑えられます。ガラスのように熱衝撃で割れやすい材料では、パルス幅の非常に短い超短パルスレーザーを用い、集光点の内部だけを局所的に溶かす方法が使われます。装置化・自動化しやすく、気密性が求められる容器や光学部品の接合にも応用されています。

光線力学療法(PDT)

光に反応する薬剤(光感受性物質)をあらかじめ病変部に集め、そこへ特定の波長の光を当てて薬剤を活性化し、生じた活性酸素でがん細胞などを選択的に壊す治療法です。薬剤と光が届いた場所だけで反応が起きるため周囲の正常組織への影響を抑えやすい一方、薬剤も光も皮膚や組織の深部までは届きにくく、比較的浅い病変が主な対象になります。使う光の波長や照射方法、薬剤の届け方を工夫することで、治療できる範囲を広げる研究が進められています。

補償光学(adaptive optics)

大気の揺らぎや鏡・レンズの熱変形などで乱れた光の波面を、可変形鏡や空間光変調器でリアルタイムに補正し、像や集光を鮮明に保つ技術です。もとは天体望遠鏡で星のまたたきを抑えるために発展し、現在では眼底イメージング、レーザー加工、重力波望遠鏡の鏡面制御など幅広い分野で使われています。波面センサーで歪みを測り、その逆の形を光学素子に与えて打ち消すのが基本的な考え方です。

レーザーダイシング(laser dicing)

半導体ウェハなどの基板を、回転する刃ではなくレーザー光で切り分ける加工法です。集光したパルス光で材料を局所的に蒸発させたり、内部に改質層を作ってから割ったりして分離します。刃を押し当てないため、割れやすい薄い基板や低強度の材料でも機械的な応力をかけずに加工でき、切りしろを狭くできる利点があります。一方で、パルスの数やエネルギーが不足すると切り残しが生じ、過剰だと材料や固定テープを傷めるため、加工の深さを工程中に把握する監視技術が歩留まりを左右します。

インバースデザイン(逆設計)

光学素子の設計で、構造を決めてから性能を計算するのではなく、望む性能を先に指定して、それを満たす構造をコンピュータの最適化によって探し出す手法です。設計変数を細かく刻んで数値計算を繰り返すため、人間が直感的に描く形とは異なる、複雑で不規則な構造が得られることがあります。フォトニックチップの波長分離素子やモード変換素子、メタサーフェスなどで、従来設計より大幅な小型化や広帯域化が報告されています。実際に作れるかどうかは製造プロセスの制約に依存するため、最小線幅などの条件を最適化に組み込む工夫が併せて行われます。

フォトニック準結晶

屈折率の異なる構造を、結晶のように規則正しく繰り返すのではなく、繰り返しのない(非周期的な)並びで配置した光学構造です。周期構造ではないため通常の回折条件が当てはまらず、多方向に対称性の高い回折や、特定波長の光が通りにくい帯域が現れることがあります。ペンローズ・タイルのような数学的な非周期パターンを電子線リソグラフィなどで薄膜に描いて作られ、レーザー光を当てたときの回折像から構造の対称性を調べられます。周期構造では得にくい光の制御が可能で、面発光レーザーやセンサー、光取り出し構造などへの応用が検討されています。

光コンピューティング

電子回路の代わりに光の伝搬・干渉・回折を使って計算を行う方式です。光は空間を並列に進み、レンズや回折素子を1回通るだけで多数の掛け算と足し算に相当する変換が起こるため、行列演算や、膨大な候補から最良の解を探す最適化問題との相性がよいとされます。候補となる解を光のパターン(強度や位相の分布)として符号化し、その良さを一度の測定で評価する使い方が代表的です。消費電力や速度の面で利点が期待される一方、精度やデータの入出力速度が課題で、電子回路と組み合わせたハイブリッド構成の研究が進んでいます。

フォトニック時間結晶(photonic time crystal)

フォトニック結晶が屈折率などの光学的性質を「空間」に周期的に並べた構造であるのに対し、フォトニック時間結晶は同じ性質を「時間」方向にも周期的に変化させた媒質を指します。光自身の振動周期に近い速さで屈折率を強く揺らすと、通常の物質では起こらない帯構造(運動量ギャップ)が現れ、外部から光を増幅したり発振につなげたりできると理論的に予測されてきました。強い変調と速い変調を同時に満たすことが難しく、実験的な実現は限られていますが、テラヘルツ帯や光通信帯での超高速な光制御、新しい光源の原理として注目されています。

マイクロLED(micro-LED)

一辺が数マイクロメートルから数十マイクロメートル程度の微小な発光ダイオードを、多数並べて画素とするディスプレイ技術です。自発光のため高い輝度とコントラストが得られ、消費電力や寿命の面でも有利とされます。一般には赤・緑・青の3色を別々の材料で作り、微小なチップを基板上へ精密に並べ替える工程が必要で、この移載と歩留まりが量産の壁になっています。1つの発光層から複数の色を出す材料や、色変換層を組み合わせる方式など、工程を簡略化する研究が進められています。スマートグラスや車載表示、大型サイネージなどが主な用途です。

トポロジカルフォトニクス

電子のトポロジカル絶縁体の考え方を光に持ち込み、周期構造の設計によって光の進み方に「向き」を与える研究分野です。特定の条件を満たす構造では、境界に沿って一方向にだけ進む光の通り道ができ、曲がり角や製造上の欠陥があっても後方に散乱されにくいという性質を示します。損失や乱れに強い導波路、レーザー、光アイソレータなどへの応用が期待されており、マイクロ波から可視光まで幅広い波長帯で実証が進んでいます。

強誘電体(ferroelectric)

外から電場をかけなくても電気分極が残り、その向きを電場で反転できる材料です。ニオブ酸リチウムやチタン酸ジルコン酸鉛などが代表で、電気光学効果や非線形光学効果が大きいため、光変調器や波長変換素子に広く使われます。分極の向きがそろった領域はドメインと呼ばれ、その大きさや並びを制御することで擬似位相整合などの機能を作り込みます。近年は光照射によるドメイン制御や、薄膜化した強誘電体を用いた集積光デバイスの研究も進められています。

レーザー航跡場加速(laser wakefield acceleration)

超短パルスの高強度レーザーをガスに集光してプラズマをつくり、そのなかに生じる電子の粗密波(航跡場)に電子を乗せて加速する方式です。加速電界は従来の高周波加速器の数千倍に達し、数センチメートルの距離で数百MeVから数GeV級のエネルギーが得られます。装置を大幅に小型化できる一方、光がプラズマ中でわずかに遅くなるため、加速された電子が波を追い越して加速位相からずれる「デフェージング」が到達エネルギーを制限します。これを避けるため、焦点の位置そのものを光速に近い速さで前方へ走らせる工夫などが研究されています。

ポラリトン(polariton)

光(フォトン)と物質の励起(半導体や分子の励起子など)が強く結びつき、どちらとも言い切れない一体の状態になったものをポラリトンと呼びます。微小な共振器に光を閉じ込め、内部の物質と光を何度もやり取りさせる「強結合」の条件で現れます。光のように軽くて速い性質と、物質のように互いに影響し合う性質を併せ持つため、通常のレーザーより低いしきい値で発光するポラリトンレーザーや、光同士を実質的に相互作用させる素子、室温で起こる凝縮現象の研究などに使われています。

光造形(photofabrication)

光を当てた場所だけを硬化・重合させて、狙った形の構造物をつくる加工法です。紫外光や可視光で反応する樹脂やハイドロゲルを用い、マスク露光や集光ビームの走査、あるいは液面の形そのものを利用して、微細な三次元構造を型なし・非接触で成形できます。細胞を傷めにくい波長や強度を選べるため、再生医療向けの足場や微小流路、人工血管のような中空構造をつくる用途にも広がっています。

円偏光(circularly polarized light)

光の電場が進行方向のまわりを回りながら進む状態の光です。回転の向きに右回りと左回りがあり、互いに区別できるため、右回りと左回りに別々の情報を載せる使い方ができます。鏡像の関係にある「キラル」な分子や結晶は、どちら回りの円偏光を当てるかで吸収や発光の強さが変わるので、医薬品や生体分子の構造を調べる分光にも使われます。次世代ディスプレイや光通信、偽造防止の分野でも光源として関心を集めています。

ハイパーユニフォーム構造(hyperuniform structure)

近くだけを見ると散らばって不規則に見えるのに、広い範囲でならすと密度のむらが非常に小さい、結晶と乱雑な構造の中間にあたる並び方です。結晶のような繰り返しがないため方向によらず似た性質を示しやすい一方、密度が揃っているおかげで光の散乱を設計しやすいという特徴があります。反射防止膜や拡散板、導波路など、特定の方向の散乱だけを抑えたい光学部品への応用が研究されています。

時間ゲーティング(time gating)

ごく短い時間だけ光を通す「シャッター」を設けて、届いた時刻で光をふるい分ける手法です。濃い霧や生体の深部を通ってきた光には、まっすぐ進んだ光と、あちこちで散乱して回り道をした光が混ざっています。回り道をした光は到着が遅れるため、先に着いた光だけを数ピコ秒以下の窓で切り出せば、ぼやけの原因を取り除いた鮮明な像が得られます。窓の開閉には機械式ではなく超短パルス光を使うことが多く、非線形光学材料や薄膜が実際のゲートとして働きます。

ファイバレーザー(fiber laser)

光ファイバそのものを増幅媒体として使うレーザーです。ファイバの中心(コア)にイッテルビウムやエルビウムなどの希土類イオンを添加し、外側から半導体レーザーの光を注いで励起します。細く長い形状のため体積のわりに表面積が大きく熱を逃がしやすいこと、光がコアに閉じ込められて品質のよいビームが得られることから、数キロワット級の加工用光源として広く使われています。一方で、光が細いコアに強く閉じ込められる分だけ非線形光学効果や誘導ブリルアン散乱が起こりやすく、これらが出力を伸ばすうえでの制約になります。放熱性の高いセラミック導波路など、代わりの材料を探す研究も進められています。

分布型音響センシング(DAS)

1本の光ファイバを、長さ方向に並んだ多数の振動センサーとして使う計測法です。ファイバにパルス光を入れると、ガラスのわずかな密度のむらによって後方へ散乱した光が戻ってきます。ファイバが振動して伸び縮みすると散乱光の位相が変わるため、光が戻ってくるまでの時間から場所を、位相の変化量から振動の大きさを読み取れます。数十kmにわたって数m間隔の観測点を一度に確保でき、地震計を多数設置する場合に比べて費用と手間を抑えられます。地震観測や地下構造の調査、パイプラインや鉄道の監視のほか、氷河のように機器の設置が難しい場所の計測にも使われています。

自由電子レーザー(FEL)

加速器で光速近くまで加速した電子の束を、磁石をN極・S極と交互に並べた装置(アンジュレータ)に通し、蛇行させながら光を出させるレーザーです。結晶やガスといった媒質の準位を使わないため、電子のエネルギーや磁石の間隔を変えることで発振波長を広く選べます。とくに通常のレーザー材料が透明でない極端紫外やX線の領域で、短パルスかつ明るい光を得られるのが特徴です。物質の内部構造の観察や、分子・電子の速い動きを追う時間分解計測に使われ、大型の共同利用施設として各国で運用されています。

測光とカンデラ(photometry)

光の量を、人の目の感じ方に重みを付けて表す測り方です。放射としてのエネルギーをそのまま測る放射測定と違い、波長ごとの見えやすさを表す標準的な感度曲線を掛け合わせて計算します。国際単位系の光度の単位カンデラはこの考え方に基づいており、ルーメンやルクスもここから導かれます。照明の明るさ表示やディスプレイの校正など、日常的な光の評価の土台になっています。一方で色の付いた光では、測定値と実際に感じる明るさがずれることが知られており、評価方法の見直しが議論されています。