Cheng, X., Picheo, E., Chen, Z., Booth, M. J., Salter, P. S., Fernández-Galiana, Á. “Raman Microspectroscopy for Structural Indication in Ultrafast Laser Writing.” Small Methods, 2026; 0:e02413. https://doi.org/10.1002/smtd.202502413
フェムト秒レーザー描画とは、透明材料にフェムト秒(10⁻¹⁵秒)オーダーの超短パルスレーザーを照射し、非線形吸収によって局所的な構造変質を引き起こす微細加工技術であり、近年急速に応用研究が進められている。ダイヤモンドへの応用では、絶縁体であるダイヤモンド(炭素原子がsp³混成軌道による正四面体構造をとる)をレーザーで局所的に黒鉛化(sp²混成軌道主体の導電性炭素へ変換)することで、放射線検出器や生体計測用途向けの埋め込み電極・配線を任意の形状で作製できる。
構造評価に用いられる顕微ラマン分光法とは、単色レーザーを試料に照射した際に生じる非弾性散乱光(ラマン散乱)を検出することで、材料の化学結合状態や結晶性を非破壊・非接触で識別できる手法である。炭素系材料においては、sp³結合は1332 cm⁻¹に鋭いピークを示し、sp²結合は約1580 cm⁻¹(Gバンド)および約1350~1360 cm⁻¹(Dバンド)に特徴的なピークを示すことから、黒鉛化の進行を定量的に評価するうえで特に有効である。
しかし、フェムト秒レーザー描画デバイスの製造においては、加工中にリアルタイムで構造状態を評価できるフィードバック機構が存在しないことが大きな問題となっている。従来の構造解析手法である透過型電子顕微鏡・走査型電子顕微鏡・X線回折顕微鏡はいずれも破壊的または事後的な測定であり、加工プロセスへの組み込みが困難である。また、明視野光学顕微鏡像は黒鉛化の定性的な目安にはなるものの、吸収・散乱・デブリ・照明むらが混在するため位相特異的な定量評価ができない。蛍光(フォトルミネセンス)マッピングも広帯域発光の影響を受けやすく、定量的な黒鉛化評価の信頼性が低いという問題がある。
そこで、本研究では共焦点顕微ラマン分光によるラマンマッピングをフェムト秒レーザー描画システムに組み込んだ評価手法を構築することによって、これらの問題を解決した。走査速度の異なる条件で作製したダイヤモンド表面の黒鉛化電極(パッドおよびワイヤ)に対し、sp³ピーク(1332 cm⁻¹)の強度消失が電気抵抗と単調な相関を示すことを実証した。sp²強度は高照射量域で一旦低下する非単調な挙動を示すのに対し、sp³強度は照射量増加に伴い単調に減少するため、より信頼性の高い黒鉛化指標となることが明らかになった。加えて、事前のバンド帰属知識を必要としないスペクトル分離手法(線形混合モデルに基づく端成分抽出)を導入し、データ駆動的に炭素相の空間分布を抽出できることも示した。Cobolt社製532 nm連続波レーザー(Cobolt Samba 150 mW)は、共焦点顕微鏡に組み込まれ、フォトルミネセンスおよびラマン散乱の同時励起光源として使用された。本手法はダイヤモンドに限定されず、ガラスや炭化ケイ素など他の透明材料へのフェムト秒レーザー加工にも展開可能である。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。
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