
SERDS(シフト励起ラマン差分分光法)専用に設計された小型な2波長同時発振レーザーです。固定波長差を持つ2本の785 nmの狭帯域レーザーを1台に統合しております。
NEWSSERDS用デュアルライン785 nmレーザー「Cobolt Skyra」で、蛍光に埋もれたラマン信号を抽出するテクニカルノートが公開されました。
SERDSの原理
シフト励起ラマン
差分分光法(SERDS)
SERDS は、蛍光の背景に埋もれてしまったラマン信号を取り出す測定法です。励起レーザーの波長をごくわずか(ラマン線幅ほど)ずらした2つのスペクトルを測り、その差を取ります。ラマンのピークは励起と一緒に動き、蛍光はほとんど動かないため、差を取ると蛍光だけがきれいに消えます。特別な分光器は不要で、必要なのは波長を切り替えられるレーザーだけです。
ラマン測定を妨げる蛍光背景
ラマン散乱はとても弱い現象で、試料や不純物が出す蛍光は、ラマン信号の数千〜百万倍の強さになることがあります。生体組織や食品、鉱物、顔料など「現実の試料」ほど蛍光が強く、ピークが背景に沈んで見えなくなります。
蛍光を減らす定番の対策が、電子をほとんど励起しない近赤外(785 nm など)での測定です。それでも試料によっては背景が残り、なだらかな背景を数式で引く方法では、どこまでが背景でどこからがピークかを決めきれません。SERDS はこの残った背景を物理的な性質の違いで取り除きます。
励起をずらすと
ラマンだけが動く
ラマン散乱の光は、励起光から分子振動のぶんだけエネルギーが下がった位置に現れます。つまりラマンピークの位置は励起光に対する相対位置で決まっていて、励起波長を 0.5 nm ずらすと、すべてのピークがそっくり 0.5 nm 動きます。
一方、蛍光は分子がいったんエネルギーを失ってから出す光なので、その形は分子の電子状態で決まっており、励起波長を少し変えてもほとんど変わりません。この「動くもの(ラマン)」と「動かないもの(蛍光・迷光)」の違いが SERDS の原理の核心です。
差を取ると蛍光が消える
2つのスペクトルを引き算すると、両方に同じ形で含まれている蛍光・迷光・感度むらは打ち消され、位置がずれているラマンピークだけが山と谷が対になった微分のような形で残ります。
この差スペクトルを数値処理(積分や当てはめ)で元に戻すと、背景のない通常のラマンスペクトルが得られます。背景の形を仮定して引く方法と違い、恣意的な基準線を引く必要がありません。
どれだけずらすのが
よいか
ずらす量が小さすぎると、2つのスペクトルがほぼ重なって差がほとんど出ません。大きすぎても差信号はそれ以上増えず、かえって蛍光の形がずれて打ち消しが悪くなります。
差信号が効率よく出るのは、ずらす量がラマンピークの線幅と同じ程度のときです。溶液や固体の典型的な線幅は 10 cm⁻¹ 前後で、785 nm ではおよそ 0.5〜0.6 nm に相当します。Skyra for SERDS の2本のライン(784.8 / 785.3 nm、間隔 0.5 nm ≈ 8 cm⁻¹)はちょうどこの条件に合わせた設計です。
SERDS 測定の流れ
測定は通常のラマン分光とほぼ同じで、励起波長を切り替えて2回測るだけです。分光器や検出器はそのまま使え、レーザーを2波長切替型に置き換えるだけで既存の装置を SERDS 化できます。
784.8 nm で励起してスペクトルを記録します。ラマンは蛍光の上に小さく乗っています。
785.3 nm に切り替えてもう一度測ります。ラマンピークだけが 0.5 nm ずれます。
2つの差を取り、数値処理で背景のないラマンスペクトルを再構成します。
SERDS が活きる測定対象
SERDS は「蛍光が強くて通常のラマンでは測れない試料」で効果を発揮します。近赤外励起と組み合わせることで、前処理なしの実試料をそのまま測れるようになります。
皮膚や組織の診断研究、食品の成分・鮮度の評価、農産物の非破壊検査など、自家蛍光でピークが埋もれる試料に使われています。
鉱物中の微量な不純物や、絵画の顔料・染料は強い蛍光を出すことが多く、SERDS により現場でのその場分析が可能になります。
励起波長に依存しない背景はすべて打ち消されるため、環境光や迷光のある製造ラインや屋外での測定にも向いています。
製品の特徴
- 固定波長差(約0.5 nm)を持つ2本の785 nm発振ライン
- 各ラインで最大100 mWの光出力
- 制御電子回路を内蔵しながらも手のひらサイズ
- 堅牢なパッケージ ファイバー結合オプション対応
- 使いやすいGUI
SERDS用レーザーの製品仕様
| 中心波長 - ライン1 | 784.8 ± 0.5 nm |
| 公称中心波長 - ライン2 | 785.3 nm |
| 波長間隔 | 0.5 ± 0.1 nm |
| ビーム径(アパーチャ) | 700 ± 100 μm |
| ビーム対称性 | > 0.85 : 1 |
| ビーム発散角(全角) | < 1.8 mrad |
| 空間モード(TEM₀₀) | M² < 1.25 |
| 偏光消光比 | > 100:1, 垂直偏光 |
| ノイズ(250 Hz - 2 MHz, rms) | < 0.3 % |
| 長期安定性(8時間, ±3°C) | < 3 % |
| ビーム位置精度 | < 0.5 mm |
| ビーム角度精度 | < 5 mrad |
| 温度ポインティング(20-50 °C) | < 10 μrad/°C |
| ビーム位置重なり(出射口) | < 50 μm |
| ビーム間角度偏差 | < 250 μrad |
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