Li, K., Koukoutselos, K., Sakaguchi, M., Ciocchi, S. “Distinct ventral hippocampal inhibitory microcircuits regulating anxiety and fear behaviors.” Nature Communications (2024) 15:8228. https://doi.org/10.1038/s41467-024-52466-4
不安と恐怖は、どちらも生体が危険な環境で生存するための防衛行動を引き起こす負の情動状態であり、その神経基盤の解明は精神医学的疾患の理解にも直結することから、近年盛んに研究が進められている。不安は潜在的・予期的な脅威によって喚起されるのに対し、恐怖はより具体的・即時的な脅威によって惹起される。これらの情動処理には、扁桃体・腹側海馬・内側前頭前皮質が中心的な役割を果たしており、多様な長距離投射を介して相互に連絡している。
なかでも腹側海馬CA1領域(vCA1)は注目されており、側部視床下部や内側前頭前皮質への投射が不安に関与し、扁桃体への投射が文脈依存的な恐怖に関与することが明らかになっている。vCA1には、GABA(γ-アミノ酪酸)を放出する抑制性介在神経細胞が複数種存在する。これらはGABAergic介在神経細胞と総称され、錐体神経細胞(主要な興奮性細胞)の活動を部位特異的に制御する。臨床的にも、GABA受容体を調節するベンゾジアゼピン系薬が不安症治療の第一選択薬として広く用いられていることから、vCA1の抑制性回路と情動との関係解明は重要な課題である。
しかし、vCA1から出発する複数の並行する長距離投射経路が不安と恐怖においてそれぞれ異なる役割を担うことは示唆されていたものの、これらの経路特異的な活動パターンがどのような局所回路メカニズムによって生み出されるのかは不明であった。特に、ソマトスタチン(Sst)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、パルブアルブミン(PV)といった各抑制性介在神経細胞のサブタイプが、不安と恐怖のそれぞれに対してどのように選択的に関与するかは解明されていなかった。
そこで本研究では、自由行動下のマウスにおいてvCA1錐体神経細胞および各種GABAergic介在神経細胞に対するin vivoカルシウムイメージングと光遺伝学的操作を組み合わせることで、この問題を解決した。カルシウムイメージングには、GCaMP6fの励起光源として Cobolt社製488 nmレーザー(出力1 mW)を使用し、個々の神経細胞の活動をリアルタイムで記録した。また、光遺伝学的操作には同じくCobolt社製594 nmレーザー(出力8〜12 mW)を用いて、抑制型オプシン(eNpHR3.0)や興奮型オプシン(ChrimsonR)を発現させた神経細胞を選択的に制御した。
その結果、PV介在神経細胞が不安行動時に特異的に活性化され錐体神経細胞の活動を適切なレベルに制御する「不安微小回路」と、VIP介在神経細胞がSst介在神経細胞を抑制することで錐体神経細胞を脱抑制する「恐怖微小回路」という、機能的に独立した二つの抑制性微小回路の存在が明らかとなった。これにより、同一のvCA1領域内で不安と恐怖が異なる局所回路によって符号化されることが初めて実証された。
※本要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。
論文でで使用された488nmと594nmレーザー
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