Stefaniuk, M., Gualda, E. J., Pawlowska, M., Legutko, D., Matryba, P., Koza, P., Konopka, W., Owczarek, D., Wawrzyniak, M., Loza-Alvarez, P., Kaczmarek, L. “Light-sheet microscopy imaging of a whole cleared rat brain with Thy1-GFP transgene.” Scientific Reports 2016, 6, 28209. https://doi.org/10.1038/srep28209
背景
脳全体の神経回路網を細胞単位の解像度で詳細に描出することは、複雑な行動や生理現象の基盤となる構造を理解するために極めて重要である 。広範囲の組織を高速かつ高精細に可視化するライトシート顕微鏡法は、薄いシート状の励起光を用いて標本を面ごとに順次走査する技術であり、従来の点走査型顕微鏡に比べ圧倒的な速度で三次元画像を構築できる利点を持つ 。また、組織内の光散乱の主因である屈折率の不均一性を化学的に解消し、不透明な生体組織を光が透過する状態にする組織透明化技術も飛躍的に進歩している 。神経細胞に緑色蛍光タンパク質を発現させるThy1-GFP導入遺伝子技術を組み合わせることで、個々の細胞形態や樹状突起の微細構造に至るまで、生体内の位置情報を保ったまま三次元的に追跡することが可能である 。これらを統合することにより、広範な脳領域にわたる神経投射を網羅的に解析する定量的解剖学が実現し、脳機能の解明に向けた研究が世界中で加速している 。
従来の問題点
しかし、脳組織における光の散乱は物理的な観察深度を著しく制限するため、従来の全脳観察は薄く切断した大量の組織切片を個別に撮像し、後に計算機上で再構築するという多大な労力と時間を要する手法に依存していた 。加えて、既存の多くの組織透明化手法は主にマウスの脳を対象として最適化されており、マウスよりも脳体積が大きく、かつ光を散乱しやすい髄鞘成分が豊富な成体ラットの脳に対しては、十分な透明度を得ることが極めて困難であった 。代表的な透明化手法であるCUBIC法やPACT法をラット全脳に適用しようとすると、長期間の処理が必要となり、その過程で重要な蛍光信号が消失したり、組織の過度な膨張によって屈折率が乱れ、画像が著しく歪んだりするという深刻な課題が存在していた 。
解決方法と結果
そこで、本研究では独自に作製したThy1-GFP導入ラットを用い、溶媒置換に基づくFluoClearBABB法を採用することで、蛍光を維持しながら成体ラット脳の高度な透明化に成功した 。本手法の有効性を検証するため、励起光源として安定した出力を持つCobolt社製の連続波発振レーザー(波長488ナノメートル)を組み込んだライトシート顕微鏡を構築し、透明化標本内の神経細胞を効率的に励起・観察した 。この装置により、広視野での全脳構造の把握と、高い数値開口数を持つレンズによる特定部位の微細構造観察を同一標本で行うことが可能となった 。その結果、大型の成体ラット脳半球全体の神経ネットワークを、細胞レベルの解像度で三次元描写する簡便かつ低費用な解析手法が確立された 。
※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。
原文
論文で使用されたCoboltのレーザー
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