Mañas-Valero, S., Doedes, Y.C., Bondarenko, A. et al. “Isofrequency spin-wave imaging using color center magnetometry for magnon spintronics.” Nature Communications 2025, 17, 379. https://doi.org/10.1038/s41467-025-67056-1
磁性体の薄膜を伝わるスピン波は、磁気モーメントが波のように揃って振れる集団励起であり、減衰が小さく、マイクロ波帯でも波長が数マイクロメートルにとどまるため、情報を運ぶ信号としての研究が近年進んでいる。素子化には、スピン波と土台となる磁化の並びを高い分解能で観察する手段が要る。有力なのが、結晶中の原子欠陥の電子スピンをセンサーとする色中心磁気測定である。ダイヤモンドの窒素空孔中心や六方晶窒化ホウ素のホウ素空孔は発光量がスピンの状態で変わるため、マイクロ波を掃引しつつ発光を測れば共鳴周波数から磁場が分かり、試料表面に数百ナノメートルまで近づけられる。
しかし、この手法は両者の周波数が一致しなければ検出できず、センサーの周波数を合わせるために外部磁場を加えると、その磁場が試料の磁化にも作用してスピン波の分散を変えてしまう問題点がある。検出周波数も色中心の種類でほぼ決まり、狙った動作周波数での観察が難しい。
そこで、本研究ではセンサースピンの異方性軸を、磁性薄膜が磁化しにくい膜面に垂直な向きへ合わせることによって、解決した。この配置では、垂直磁場では共鳴周波数が一次で変化せず、面内磁場ではスピン波の分散が一次で変化するため、両者を独立に制御できる。零磁場分裂が2.87 GHzの窒素空孔中心と3.5 GHzのホウ素空孔中心を併用した。厚さ50 nmのパーマロイ半平面では、観察周波数を固定したまま1 mT以下の面内磁場の向きだけで波長を約6倍の幅で制御できた。膜の端では異方性の競合で磁化がねじれ、磁場を回す向きの履歴により、ねじれ配置と磁壁生成の二つの安定状態を作り分けられた。Cobolt社製のレーザー発振器(Cobolt 06-MLD、波長515 nm)は色中心を光励起する光源として用いられ、窒素空孔中心に40 µW、窒化ホウ素の薄片に360 µWを集光し、スピン状態に応じた発光量の変化を読み出した。
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。
【用語解説】
- 色中心:結晶中の原子欠陥のうち、光を吸収・発光する準位を持つもの。ダイヤモンド中の窒素空孔中心や六方晶窒化ホウ素中のホウ素空孔がその例で、欠陥に束縛された電子スピンを磁場計として使える。
- 零磁場分裂:外部磁場がなくても、欠陥の結晶対称性に由来する異方性によってスピンの準位が分かれていること。窒素空孔中心で2.87 GHz、ホウ素空孔中心で3.5 GHzであり、これが磁気測定の基準周波数になる。
- パーマロイ:鉄とニッケルの合金で、小さな磁場で磁化の向きが変わり、損失も小さいため、スピン波の実験でよく使われる薄膜材料。
