Gonzalez-Morote, V., Sledzinska, M., Gertych, A. P., Jaffery, S. H. A., Zdrojek, M., Navarro-Urrios, D. “Evanescent Absorption Spectroscopy of Transition Metal Dichalcogenide Materials Using Guided Photoluminescence in Si3N4 Photonic Waveguides.” ACS Applied Optical Materials 2026, 4, 2765-2773. https://doi.org/10.1021/acsaom.6c00415
原子数層の厚さをもつ二次元半導体である遷移金属ダイカルコゲナイド(MoS₂、WS₂)は、可視から近赤外に鋭い励起子共鳴を示すため、小型の受光素子や光変調素子の材料として研究が進んでいる。これを窒化ケイ素(Si₃N₄)の光導波路の上に載せると、導波路の外へわずかに漏れ出す光の裾と重なり、伝搬方向に相互作用長を稼げる。1回の透過では小さい吸収も数十 µm の長さで実効的に1に近づくため、この原理で可視・近赤外の受光や全光変調が実現されてきた。
しかし、素子の性能を決める吸収スペクトルは、転写前の単体の薄片を自由空間で測るか、外部の広帯域光源をチップへ結合して透過を測ることで評価されてきた。二次元材料の励起子遷移の位置は歪み・誘電遮蔽・下地との相互作用で集積後に移動するため、前者は動作状態を表さず、後者は広帯域光源と結合系を要する問題点がある。
そこで、本研究では導波路自身の発光を内蔵の広帯域光源として使うことによって、解決した。Si₃N₄のコアを波長 405 nm で励起すると欠陥準位を介した広帯域発光が生じ、その一部が導波モードに結合して伝搬する。この光が薄片の下を通る間に波長ごとに減衰するので、二次元材料のない参照導波路の出力で規格化すれば、動作状態のままの吸収スペクトルが得られる。励起には Cobolt 社製 06-MLD(405 nm、3.06 eV、連続発振)を用い、先端にレンズを付けた光ファイバで導波路端面へ突き合わせ、Si₃N₄の広帯域発光を生じさせる内蔵光源として機能させた。単層 MoS₂ では 1.81 eV、単層 WS₂ では 1.95 eV で導波光が消失し、局所の顕微発光と一致した。層数が不均一な薄片では最も低エネルギー側の領域が支配して 1.77 eV で消失するため、均一性の判別もできる。減衰量は MoS₂ で約 450 dB cm⁻¹ まで定量でき、A・B励起子に対応する構造も確認された。

出典:Gonzalez-Morote et al., ACS Appl. Opt. Mater. 4, 2765 (2026), Fig. 1. https://doi.org/10.1021/acsaom.6c00415 — CC BY 4.0(https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/)/改変なし
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成(背景・従来の問題点・結果)で再構成した日本語要約です。
※掲載した図は同論文より CC BY 4.0 に基づき転載しています(改変の有無は各図のキャプションに記載)。
【用語解説】
- エバネッセント場:光導波路の中を進む光のうち、外側(空気や上に載せた薄膜の側)へわずかに染み出し、距離とともに急激に弱まる電磁場。本研究の導波路では光のエネルギーの 6〜10 % がここに存在し、この領域に二次元材料を置くことで吸収が生じる。
- 励起子:半導体中で光により生じた電子と正孔が、互いの電気的な引力で結びついた対。二次元材料では結合が強く室温でも安定なので、吸収・発光スペクトルに鋭い構造として現れる。MoS₂やWS₂ではエネルギーの低い順に A、B と呼ぶ。
- 欠陥準位・バンドテール準位:本来は電子が存在できない禁制帯の中に、原子配列の乱れや不純物によってできる準位。Si₃N₄では禁制帯より小さい光子エネルギーの光でも吸収と発光が起こる原因となり、本研究はこれを内蔵光源として利用した。

