チタニア担持モリブデナの分子構造 ―in situ ラマン・赤外分光による酸化モリブデン(VI)表面種の解析―

Kentri, T., Dimitropoulos, P., Niavi, K., Kordouli, E., Boghosian, S. “Molecular structure of titania-supported molybdena: in situ Raman and FTIR spectroscopy of distinct MoVIOx configurations dispersed on titania.” RSC Advances 2026, 16, 23019. https://doi.org/10.1039/d6ra00034g

背景

 担持金属酸化物触媒は、酸化物担体の表面に金属酸化物を薄く分散させた触媒であり、選択酸化をはじめ工業・環境分野の多くのプロセスで重要であることから、近年研究が進められている。とりわけ、担体上に分散したモリブデン酸化物(モリブデナ)の触媒性能は、表面に形成される酸化モリブデン(VI)種の分子構造、すなわち配位形式や重合度に強く支配される。したがって、構造と機能の関係を導くうえで、こうした表面種を分子レベルで解明することが不可欠である。

従来の問題点

 しかし、チタニア上に分散したモリブデナ種については、支配的な配位構造が単オキソか二オキソか、孤立種か重合種かといった点で統一的な見解が得られていなかった。さらに、焼成後の配位構造は合成法によらず熱力学のみで決まり、温度を下げても元に戻らないと、十分な根拠のないまま仮定されてきた問題があった。

結果

 そこで、本研究では酸化的脱水条件下・120〜430℃でのその場ラマン分光と赤外分光により、チタニア(アナターゼおよびP25)上の酸化モリブデン種を分子レベルで解析し、この課題を解決した。その結果、単オキソ四配位型・単オキソ五配位型・二オキソ型の三種の表面種を同定し、低被覆では孤立単核種が、高被覆では重合したポリモリブデン酸種が優勢になることを示した。さらに、温度低下に伴い五配位型が担体表面に保持された水を介して二オキソ型へ可逆的に変化することを見出し、「配位は温度で戻らない」とする従来の仮定を覆した。ラマン分光の励起光源にはCobolt社製491nmレーザーCalypsoを試料上10 mWで用いた。以上より、担持量と温度で表面種の配位構造を制御できることを示した。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 3.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • 担持金属酸化物触媒:担体(酸化物など)の表面に、活性成分である金属酸化物を単層に近い薄い層として分散させた触媒。少量の活性成分を広い表面積で有効に働かせられる。
  • その場(in situ)分光:反応温度や雰囲気ガスなど実際の作動条件を保ったまま試料を測定し、化学種や状態の変化を直接追跡する分光手法。
  • 単オキソ/二オキソ配位:金属中心に二重結合性の酸素(Mo=O)が一つ結合した構造を単オキソ、二つ結合した構造を二オキソと呼び、ラマンや赤外の振動バンド位置から区別できる。

ラマン分光に使用された491 nmレーザー

Cobolt 491nmレーザー
491nmレーザー Calypso