Enghardt, M.-L., Winterfeld, A., Pahlow, S., Silge, A., Popp, J. “From bulk samples to single cells: measurement strategies in Raman-based antibiotic susceptibility testing.” Analytical and Bioanalytical Chemistry 2026. https://doi.org/10.1007/s00216-026-06558-3
細菌が抗菌薬に効かなくなる薬剤耐性は世界的な脅威であり、感受性を短時間で判定する手法の研究が進められている。光を当てた分子の振動に応じて波長がわずかにずれる散乱光を捉えるラマン分光は、標識を付けずに細菌の生化学組成を指紋のように得られるため、抗菌薬を加えた試料と対照を比べることで表現型の変化を直接評価できる光学的手法として有望である。
しかし、増殖を指標とする標準的な微量液体希釈法は、結果を得るまでに18〜24時間を要する問題点がある。またラマン分光による既存手法の多くは遠心分離と洗浄を経た多量の菌体に依存し、尿のように菌数が少なく変動する検体には適用しにくい。試料調製の違いは測定時の菌の存在形態を決めてスペクトルの質や再現性を左右するが、どの測定戦略が分析性能と実用性の釣り合いに優れるかは明らかでなかった。
そこで、本研究では培養と抗菌薬曝露の手順を統一し、最終の試料調製だけを変えた三方式を比較することによって解決した。三方式は、遠心・洗浄後に基板上で乾燥させたバルク測定、誘電泳動で液中に菌の集塊を作る測定、ろ過膜上の単一細胞測定である。大腸菌をアモキシシリンとレボフロキサシンに90分曝露し、主成分分析と線形判別分析で増殖と非増殖を分類した。信号が多数の細胞で平均化される乾燥バルク測定が最も頑健で、誘電泳動法は洗浄が不要な閉鎖系で総所要時間が最短の約2時間25分と、性能と実用性の均衡に優れた。単一細胞測定は菌数が少なくても測れる反面、細胞ごとの不均一性で精度が下がり6〜8時間を要した。適した方式は薬剤の作用機序にも依存し、細胞壁を壊すアモキシシリンでは損傷菌がろ過膜を通り抜けて測定から漏れた。Cobolt社製の波長514 nm・最大出力100 mWの半導体励起固体レーザーは乾燥バルク測定の励起光源として用いられ、対物レンズ前で10 mWに調整して乾燥菌体のラマン散乱を励起した。
※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。
【用語解説】
- 微量液体希釈法:抗菌薬を段階的に薄めた液体培地で細菌を一晩培養し、濁りが生じなくなる最小の薬剤濃度(最小発育阻止濃度)を求める、感受性試験の基準となる方法。
- 誘電泳動:均一でない交流電場の中で、分極した粒子が電場の強い側または弱い側へ引かれて移動する現象。細菌のような微小な粒子を電極の周囲に集めて濃縮できる。
- 線形判別分析:あらかじめ分かっている複数の群を最もよく隔てる軸を求め、その軸上の位置で未知の試料がどの群に属するかを判定する多変量解析法。主成分分析で次元を減らした後に使われることが多い。

