窒化ホウ素ナノチューブ中のスピン欠陥を用いた量子センシング

Rizzato, R., Hidalgo, A.A., Nie, L., Blundo, E., von Grafenstein, N.R., Finley, J.J., Bucher, D.B. “Quantum sensing with spin defects in boron nitride nanotubes.” Nat. Commun. 16, 11333 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-025-67538-2

背景

 固体中で光により操作できるスピン欠陥は、電子スピンの状態を光で初期化し読み出せることから、量子技術や高感度な計測の基盤として近年急速に研究が進められている。中でもダイヤモンド中の窒素空孔中心は、単一分子の検出や高分解能の核磁気共鳴、液体と固体の界面での化学反応のナノスケール計測を可能にする代表的な基盤として確立してきた。また、二次元物質である六方晶窒化ホウ素の中の硼素空孔などのスピン欠陥も、検出対象へ薄く近づけられる利点から有力な選択肢として注目されている。こうした計測では、スピン欠陥と検出対象との相互作用をいかに大きくするかが感度を左右する。

従来の問題点

 しかし、ダイヤモンドや二次元の窒化ホウ素薄片といった既存の固体スピン欠陥は、平面的で検出対象と接する面積が限られるため、欠陥と対象との相互作用を十分に高められず、微量の常磁性イオンを検出する感度に限界があるという問題点がある。

結果

 そこで、本研究では中空構造をもつ窒化ホウ素ナノチューブ中のスピン欠陥に着目し、網目状に集積させて表面積と検出対象との接触を高めることで解決した。向きの異なるナノチューブでも欠陥が等しく働く点を活かし、動的デカップリング法によって室温での量子状態のそろい(コヒーレンス)を延ばし、高分解能の電波信号検出を実現した。さらに微小流路と組み合わせ、常磁性のガドリニウムイオンをマイクロモル濃度で検出し、窒化ホウ素薄片を用いた従来報告より約千倍高い感度を達成した。Cobolt社製の520 nmレーザーは、この網目状のスピン欠陥集団を光で励起して初期化し、蛍光の強度変化として欠陥の量子状態を読み出す目的で使用された。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。

【用語解説】

  • スピン欠陥:結晶中の原子の欠けや置き換わりによって生じ、電子スピンが特定の状態をとって光や電波で操作・読み出しできる部位。量子計測の感知素子となる。
  • 窒素空孔中心(NV中心):ダイヤモンド中で炭素が窒素に置き換わり、その隣が原子空孔となった欠陥。室温で量子状態を扱え、磁場や温度などの高感度な計測素子として広く使われる。
  • 動的デカップリング:周期的な電波パルスを加えて周囲の雑音の影響を打ち消し、量子状態のそろいが保たれる時間(コヒーレンス時間)を延ばす手法。

スピン欠陥の初期化と読み出しに使用された520 nmレーザー

520nmレーザー
520nmレーザー