軸外し照明と後方集光による共焦点ブリルアン散乱顕微分光

Yui, H., Fujiyama, Y., Urashima, S., Ota, T., Hibino, H. “Off-Axis Illumination and Epicollection Confocal Brillouin Scattering Microspectroscopy.” Analytical Chemistry 2026, 98, 4696–4704. https://doi.org/10.1021/acs.analchem.5c06290

背景

 物質の中を自然に伝わる音波と光が相互作用して生じるブリルアン散乱は、散乱光の周波数のずれから音速、すなわち弾性率を求められることから、試料を染めず壊さずに力学的性質を測る手段として近年急速に研究が進められている。細胞や組織の硬さは構造の維持や機能の発現、病気の成り立ちとも深く関わる。線幅の狭いレーザーと高分解能の干渉計、焦点から外れた光を小孔で遮る共焦点顕微鏡を組み合わせた共焦点ブリルアン散乱顕微分光により、硬さの三次元分布を捉えられるようになった。

従来の問題点

 しかし、共焦点ブリルアン散乱顕微分光は、ブリルアン散乱光が極めて弱いため、同時に生じる強いレイリー散乱や光学部品からの反射迷光が背景光となり、目的の信号が埋もれてしまう問題点がある。屈折率の異なる界面を多く含む組織や厚い窓越しの液体では背景光がとりわけ強く、深部の評価は難しい。

結果

 そこで、本研究では、対物レンズの瞳の中心を外して細い照明光を入射する軸外し照明と、同じ対物レンズで後方散乱光を集める後方集光とを組み合わせることによって、解決した。これにより界面からの強い反射光は集光されない。照明光を細く絞るため空間分解能は下がるものの、水とメタノールのブリルアン信号を明瞭に分離できた。電解質を含む牛血清アルブミン水溶液を厚い石英窓越しに20 wt%まで測ると、周波数のずれと線幅がともに濃度とともに増大し、タンパク質を取り囲む水和水の寄与を組み込んだ二相模型で説明できた。Cobolt社製の単一周波数固体レーザー(Samba、波長532 nm、線幅1 MHz未満)を照明光源に用いており、その狭い線幅がGHz程度のわずかな周波数のずれの分離を可能にした。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • ブリルアン散乱:物質の中を自発的に伝わる音波によって光が散乱され、その運動に応じて入射光から1 GHz程度周波数がずれる現象。ずれの大きさは媒質中の音速に比例し、線幅は音波の減衰、すなわち粘性を反映する。
  • 後方集光:試料に光を当てた対物レンズで、そのまま後方へ戻ってくる散乱光を集める配置。試料の反対側に検出光学系を置けない厚い試料や生体組織の測定に適する。
  • 水和水:タンパク質などの溶質の表面に束縛され、自由に動く水とは異なる運動性を示す水分子。溶液全体の粘弾性に無視できない寄与をする。

ブリルアン散乱顕微分光に使用された532 nmレーザー

Cobolt 532nmレーザー
532nmレーザー