ダイヤモンドCVDにおける基板温度計測へのプラズマ発光の影響 ―放射温度計とその場ラマン温度計測の比較―

Nitta, K., Shimaoka, T., Chayahara, A., Tsubouchi, N., Mokuno, Y., Yamada, H. “Evaluation of plasma emission effects on substrate temperature measurement during diamond CVD: A comparative study between radiation pyrometry and in-situ Raman thermometry.” Diamond & Related Materials 2026, 168, 113935. https://doi.org/10.1016/j.diamond.2026.113935

背景

 ダイヤモンドは、極めて広い禁制帯幅と高い絶縁破壊電界を併せ持つことから、パワー半導体や量子センシングの材料として研究が進んでいる。主要な合成法であるマイクロ波プラズマ化学気相成長(CVD)では、基板表面温度が成長速度や不純物の取り込み、窒素-空孔中心などの量子欠陥の生成を左右し、成長は概ね 800〜1300 °C で行われる。実機では非接触で応答の速い放射温度計が広く使われている。

従来の問題点

 しかし、放射温度計には、基板の熱放射にプラズマ自身の発光が重なって読みが真の温度からずれる問題がある。メタンを含む条件ではC2の分子帯発光や連続発光に加え、高温の炭素微粒子による黒体状の放射も重なる。さらに裸のダイヤモンド基板は近赤外の放射率が極端に低く、熱放射が弱いため誤差が相対的に拡大するが、その大きさは定量化されていなかった。

結果

 そこで、本研究ではその場ラマン温度計測を基準器として放射温度計と直接比較することによって解決した。Cobolt社製のパルスレーザー Tor XS(532.1 nm、パルス幅 2.1 ns、50 µJ、100 Hz)で基板を励起し、レーザーパルスに同期した 4 µs の時間ゲート検出を併用して、プラズマ背景光を抑えてダイヤモンドの一次ラマン線を取得した。水素のみのプラズマでは近赤外の発光は無視でき、放射率を補正すれば両者は一致した。一方、水素・メタンプラズマでは 1400 nm と 1800 nm 付近にC2の分子帯発光が現れ、ラマン温度の変化が ±50 °C 以内にとどまるのに対し、90 Torr・4000 W で二色方式は 1200 °C 以上、単色方式は約 200 °C 過大評価した。原因は単色方式では輝度の加算、二色方式では短波長側が持ち上がるスペクトル傾斜の歪みであり、長波長側の検出、C2帯と重なる波長の回避、帯域と放射率補正の最適化が指針として示された。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • 単色方式と二色方式の放射温度計:単色方式は1つの波長帯の放射輝度から温度を求める方式で、対象の放射率を仮定する必要がある。二色方式は2つの波長帯の輝度比から温度を求め、放射率が波長によらなければその影響が比で打ち消される。本研究では、プラズマ発光が短波長側を持ち上げることでこの比が崩れることが示された。
  • その場ラマン温度計測:ダイヤモンドの一次ラマン線(約 1333 cm-1)は温度が上がると格子振動が軟化して低波数側へずれる(約 -0.037 cm-1/K)。このずれ量から温度を求める手法で、非接触かつ測定対象の物質を選んで測れる。
  • 時間ゲート検出:検出器を常時開けず、レーザーパルスに合わせた短時間だけ開いて信号を取り込む手法。プラズマの連続的な発光は開いている時間に比例してしか入らないため、背景光を桁違いに抑えられる。本研究では 4 µs のゲート幅(デューティ比 0.04 %)が使われた。

基板温度のその場ラマン計測に使用された532 nmパルスレーザー

532nmパルスレーザー