サケ角化細胞のトンネルナノチューブの実時間スナッピング動態とナノスケール厚み計測 ―部分コヒーレント定量位相顕微鏡による―

Afzal, B.M., Mikkelborg, M.K., Thiyagarajan, D.B., Wolfson, D.L., Ahluwalia, B.S., Dalmo, R.A., Ahmad, A. “Real-time snapping dynamics and nanoscale thickness profiling of salmon keratocyte tunneling nanotubes using partially coherent quantitative phase microscopy.” Scientific Reports 2026, 16, 17808. https://doi.org/10.1038/s41598-026-46064-1

背景

 細胞は、可溶性因子を介した伝達だけでなく直接的な接触でも連絡を取り合う。その一経路が、細胞から伸びる細い膜性突起であるトンネルナノチューブ(TNT)であり、分子や細胞小器官、時に病原体までを細胞間で受け渡す通路となりうることから、免疫や再生の面で注目されている。こうした構造を生きたまま捉える手段として、標識を要さず非侵襲に光路長差から像の濃淡を得る定量位相顕微鏡(QPM)が有力である。QPMは屈折率差と厚みの積である光路長を測り、細胞の厚みや体積を定量できる。ただしTNTは太さが一マイクロメートル未満で、十ナノメートル級の高さ差を捉える高い位相感度が要る。

従来の問題点

 しかし、完全にコヒーレントなレーザーでは、干渉縞は容易に得られる一方でスペックル雑音や寄生縞が生じ、空間位相感度が低下するため、ナノスケールのTNTの厚みを正確に捉えにくい。また標識や強い照明はTNTを傷め、動態自体を乱すおそれがある。

結果

 そこで、本研究では部分的にコヒーレントな疑似熱光源によるLinnik型干渉QPMを構築して解決した。Cobolt社製の532nmレーザー(Flamenco)の光を回転拡散板と多モード光ファイバーに通して空間コヒーレンスを下げ、疑似熱光源とすることでスペックルを抑え、約2.4ナノメートルの高い位相感度を得た。これによりサケ角化細胞のTNT(魚類皮膚上皮細胞では初報告)を無標識かつ低光毒性で捉え、厚みをナノスケールで計測し、細胞移動中にTNTが切れる実時間のスナッピング動態を可視化した。TNTが円筒ではなく扁平であることも示した。ここでCobolt社製レーザーは、回転拡散板を経て部分コヒーレント照明へ変換される干渉計測用の光源として使用された。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成(背景・従来の問題点・結果)で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • トンネルナノチューブ(TNT):細胞から伸びる直径サブマイクロメートルの細長い膜性突起で、離れた細胞どうしをつなぎ、細胞小器官や分子を輸送する経路となる構造。
  • 定量位相顕微鏡(QPM):試料を通る光の位相の遅れ(光路長差)を測り、屈折率と厚みに由来する情報を数値化する無標識の顕微鏡法。細胞を染めずに厚みや体積を定量できる。
  • 疑似熱光源(部分コヒーレント光源):コヒーレントなレーザー光を回転拡散板などで散らし、空間的・時間的コヒーレンスを下げた光源。スペックル雑音を抑えつつ高い位相感度を得られる。

定量位相顕微鏡(QPM)に使用された532 nmレーザー

Cobolt 532nmレーザー
532nmレーザー