空間分解音響分光法による金属の焼鈍過程のその場観察

Guerra, C., Li, W., Fuentes-Domínguez, R., Jin, P., Ford, A., Patel, R., Clark, M., Smith, R.J. “In situ monitoring of the annealing process using Spatially Resolved Acoustic Spectroscopy.” Materialia 2026, 45, 102675. https://doi.org/10.1016/j.mtla.2026.102675

背景

 冷間加工した金属のひずみを取り除く熱処理である焼鈍は、鋳造や圧延、鍛造の後に広く行われる工程であり、回復・再結晶・粒成長という段階を経て結晶粒組織が作り替えられる。小さな結晶粒は強度と延性を両立するため、冷間加工と再結晶は微細な組織を得る手段として意図的に用いられる。目的の組織を得るには加工量・温度・時間の管理が要るため、工程の途中で組織を非破壊で見張れれば、材料の状態を的確に制御でき、製造時間の最適化にもつながる。試料表面を伝わる弾性波の位相速度を測って結晶方位の分布を画像化する空間分解音響分光法は、走査が速く、動的な組織変化の撮像に適している。

従来の問題点

 しかし、組織の確認は工程の最後に光学顕微鏡やX線回折、硬さ試験で行うのが一般的であり、変化の過程そのものは見えない。実時間観察ができる後方散乱電子回折や高温共焦点レーザー走査顕微鏡は、走査できる試料寸法が限られ、厳密な試料調製を要する。縦波の減衰から粒径を推定するレーザー超音波法は非接触で高温にも使えるものの、組織を直接撮像できず、粒径は間接的な推定にとどまる問題点がある。

結果

 そこで、本研究では加熱台を組み込んだ空間分解音響分光法でβスズを連続走査することによって、解決した。室温から10 ℃刻みで200 ℃まで昇温しつつ4分ごとに走査した処理では、80 ℃付近で新たな結晶粒が生じる様子が捉えられ、平均速度は50〜110 ℃で上昇したのち緩やかに低下し、再結晶と粒成長を区別できた。60 ℃で24時間保持した処理では最初の30分で再結晶が進み、粒径は74 μmから150 μmへ増大した。Cobolt社製の532 nmCWレーザーは、赤外Qスイッチレーザーが励起した表面弾性波による表面の揺らぎを読み取る探査光として使われ、波の周波数から速度を求めた。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • 表面弾性波:固体の表面近くに閉じ込められて伝わる弾性波。深さ方向には波長程度で振幅が減衰し、伝わる速さは表面付近の弾性率と密度、そして結晶方位で決まる。本研究ではこの速度の分布そのものが組織の像となる。
  • 再結晶:冷間加工で蓄えられたひずみを駆動力として、ひずみのない新しい結晶粒が生じて成長し、加工組織が置き換わる現象。先行する回復、後続の粒成長とあわせて焼鈍の三段階をなす。
  • 平均線分法:組織の像に直線を引き、その長さを結晶粒界と交わった回数で割ることで平均の粒径を求める方法。

表面弾性波の検出に使用された532 nmレーザー

Cobolt 532nmレーザー
532nmレーザー