ラマン・赤外分光法によるPETモノマーを原料とした細菌ナノセルロースの評価

Eriksson, R., Mariam, I., Ramser, K., Patel, A. “Characterization of bacterial nanocellulose cultivated on polyethylene terephthalate (PET) monomers via Raman and Fourier transform infrared spectroscopy.” Scientific Reports 16, 13133 (2026). https://doi.org/10.1038/s41598-026-46886-z

背景

 細菌ナノセルロースは、植物由来のセルロースを上回る純度・結晶性・保水性をもち、医療材料や食品包装などへの応用が期待されることから、近年研究が進められている。これは酢酸菌の一種であるコマガタエイバクター属などが発酵により生産する、幅100 nm未満の極細繊維からなる生体高分子である。植物セルロースの生産は森林伐採などの環境負荷を伴うため、微生物による合成が代替手段として注目されている。さらに細菌は、廃棄物に由来する有機物も炭素源として利用できる点で有望である。

従来の問題点

 しかし、深刻な汚染源であるポリエチレンテレフタレート(PET)を分解して得られる原料、すなわちエチレングリコールとテレフタル酸を炭素源とした場合、生産される細菌ナノセルロースの分子構造や結晶性が原料ごとにどう変わるかは明らかでなく、それを非破壊で評価する手段も確立されていないという問題があった。

結果

 そこで、本研究ではグルコース、エチレングリコール、テレフタル酸の各炭素源で細菌ナノセルロースを培養し、ラマン分光と赤外分光で分子構造を比較することにより、この課題に取り組んだ。収量はエチレングリコールで最も高く、結晶性はグルコース、エチレングリコール、テレフタル酸の順に低下した。ラマンスペクトルにはグリコシド結合のひずみを示す波数の偏移が現れ、テレフタル酸では原料が残存することを示す信号も検出された。これにより、PET由来の原料からも生分解性の細菌ナノセルロースを作製できることが示された。Cobolt社製の785 nm半導体レーザーは、このラマン分光において分子の振動情報を得るための励起光源として用いられた。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。

用語解説】

  • バロリゼーション(価値化):廃棄物や低価値の物質を、有用で価値の高い資源・製品へと変換すること。本研究ではPET廃棄物を細菌ナノセルロースの原料として活用することを指す。
  • グリコシド結合:糖分子どうしが酸素原子を介して連結する結合。セルロースではグルコースがこの結合で鎖状につながり、分子間の水素結合とあわせて強度と結晶性を生む。
  • 結晶化度:材料中で分子鎖が規則正しく配列した結晶領域の割合。値が高いほど構造が秩序立ち、強度や安定性が高まる。

ラマン分光に使用された785 nmレーザー

Cobolt 785nmレーザー
785nmレーザー