バルク成長炭化ケイ素中における寿命限界発光体のチェック・プローブ分光

van de Stolpe, G.L., Feije, L.J., Loenen, S.J.H., Das, A., Timmer, G.M., de Jong, T.W., Taminiau, T.H. “Check-probe spectroscopy of lifetime-limited emitters in bulk-grown silicon carbide.” npj Quantum Information 2025, 11, 31. https://doi.org/10.1038/s41534-025-00985-3

背景

 固体中の単一光子発光体は、量子ネットワークや分散型量子計算の基盤として近年急速に研究が進められている。中でも炭化ケイ素中のケイ素空孔(V2中心)は、スピンと光の界面をもつ次世代の有力候補である。こうした応用では複数の発光体を干渉性のある光学遷移を介して接続するため、狭く安定な光学遷移が求められる。また、市販のバルク成長炭化ケイ素は大量生産が可能で広く入手できる汎用材料であり、量子技術開発への応用が期待される。

従来の問題点

 しかし、母材内部や表面の電荷揺らぎに起因するスペクトル拡散は遷移周波数を変動させる大きな課題であり、加えてレーザー照射自体がこの拡散を助長する問題がある。さらに、従来の測定法は連続的なレーザー照射で系を大きく乱すため、線幅や拡散速度を曖昧さなく決定できない問題がある。

解決方法と結果

 そこで本研究では、パルス的なチェック・プローブ方式を導入することで解決した。本手法は高帯域であり、系への擾乱を最小に抑えつつ拡散速度・イオン化速度・均一線幅を定量的に抽出できる。市販バルク成長4H炭化ケイ素中のV2中心に適用した結果、レーザー照射下では大きなスペクトル拡散(毎秒1ギガヘルツ超)が見られる一方、光学遷移は約35メガヘルツと狭く、暗状態では1秒以上安定であることを示した。さらにランダウ・ツェナー・シュテュッケルベルク干渉により、光学コヒーレンス時間T2=16.4(4)ナノ秒が寿命限界に近いことを明らかにした。ここでCobolt社製の785nm発振器(06-MLD785)は再励起光源として、V2中心とその周囲の電荷状態を初期化(乱雑化)する目的で使用された。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。

用語解説】

  • スペクトル拡散:発光体周囲の電荷の揺らぎがシュタルク効果を介して光学遷移周波数を時間的に変動させる現象。線幅が見かけ上広がる原因となる。
  • ゼロフォノン線:発光体が格子振動(フォノン)を伴わずに光を吸収・放出する際に現れる鋭い遷移線。干渉性のある光子源として重要。
  • ランダウ・ツェナー・シュテュッケルベルク干渉:強い交流電場で遷移を繰り返し横切らせた際に生じる量子干渉。光学コヒーレンスとラビ周波数を分離して評価できる。

再励起に使用された785nmレーザー

785nm半導体レーザー

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