直接的な寿命地図再構成を用いたRATS法によるナノ秒圧縮蛍光寿命顕微鏡イメージング

Junek, J., Žídek, K. “Nanosecond compressive fluorescence lifetime microscopy imaging via the RATS method with a direct reconstruction of lifetime maps.” Optics Express 2023, 31, 5181. https://doi.org/10.1364/OE.474453

背景

 物質が光を吸収してから放出するまでの時間分布を可視化する技術である蛍光寿命イメージング(FLIM)は、生物学や材料工学、化学物理等の広範な分野において、分子の環境や状態を把握するための極めて重要な手法である 。その中でも、ランダム時間信号(RATS)法は、時間的に不規則に強度変動する光で試料を連続的に励起し、得られた信号から演算によって発光減衰曲線を算出する革新的な計測法である 。この手法は、従来のパルス励起方式のように発光が完全に消えるまでの待ち時間を設ける必要がないため、高い信号対雑音比を維持しつつ効率的にデータを取得できる利点を持つ 。また、光の空間的な情報を少数の測定から復元する圧縮計測技術を単一画素カメラに応用することで、高価な撮像素子を用いない安価な装置構成を実現できる 。

従来の問題点

 しかし、従来のRATS法は回転拡散板を用いて物理的に光の不規則な変動を生成していたため、その変動速度の限界から時間分解能がマイクロ秒単位に制限され、高速な現象の観測が困難であった 。また、拡散板による光の散乱により励起光の利用効率が極めて低く、試料への照射強度が不足する課題もあった 。演算処理の面においても、時間軸上の全点において個別に画像を復元し、その後に膨大な数の画素に対して関数の適合を行う必要があったため、解析に多大な計算時間を要していた 。

解決方法と結果

 そこで、本研究では光源の変調方式と解析アルゴリズムを刷新することで、これらの課題を解決した。光源にはCobolt社製のレーザー発振器(波長405 nm)を採用し、これを150 MHzまでの高速なデジタル変調に用いることで、時間分解能を6ナノ秒まで大幅に向上させた 。また、空間的な光の型を生成する素子としてデジタルマイクロミラーデバイスを導入し、光の利用効率を従来比で百倍に高めることに成功した 。解析手法においては、全ての時間情報を再構成するのではなく、まず試料全体から代表的な寿命成分を特定し、その後に各成分の振幅分布を直接算出する新手法を提案した 。これにより、計算時間を約十分の一に短縮し、ノイズが存在する環境下でも安定した画像取得を可能にした 。最終的に、LuAG:Ce結晶を用いた実証実験において、結晶表面の微細な亀裂構造を高精度に可視化できることを証明した 。

※本要約は、Optica Open Access Publishing Agreement に基づき、作成・公開されています。

論文で使用されたCoboltのレーザー

405nmレーザー
405nmレーザー

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