Ivanina, A., Lochocki, B., Koglbauer, A., Sokolov, S., Goorden, S.A., Amitonova, L.V. “Transmission matrix of a multimode fiber: In-line vs off-axis holography.” PLoS One 2026, 21(2), e0340823. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0340823
光通信、光トラッピング、光計測、内視鏡撮像といった幅広い用途への応用が期待されることから、マルチモード光ファイバ(MMF:単一のコア内で数千の伝搬モードを同時に伝送できる光ファイバ)に関する研究が近年急速に進められている。MMFを通る光の伝搬を完全に制御するためには、入力光と出力光の関係を複素振幅で記述する透過行列(TM)を正確に計測することが本質的に重要である。TMは位相と振幅の両方の情報を含む複素量であるため、その取得には位相回復手法が不可欠であり、干渉法に基づくインライン型と離軸型のホログラフィが代表的な手法として用いられている。インライン型は参照光と物体光が同一光路を共有する共通光路構成であり、装置が単純で安定性に優れる。一方、離軸型は参照光と物体光をわずかな角度で交差させることで、フーリエ領域における側帯成分の分離を利用して位相情報を取り出す方式である。
しかし、インライン型ホログラフィはスペックル状の参照光に起因する盲点(ブラインドスポット)が生じやすく、位相特異点が存在する箇所では位相回復が破綻するという問題点がある。一方、離軸型ホログラフィはこうした不要項を回避できるものの、光学系が複雑化して振動や空気の擾乱、位相ドリフトに敏感になるという欠点を抱えている。さらに、これら二手法を同一装置上で単一焦点投影と複雑形状投影の両方について系統的に比較した研究は乏しく、用途に応じた手法選択の指針が不足していた。
そこで、本研究では同一のデジタルマイクロミラー素子(DMD)を基盤とする光学系の中に両方式を実装し、ステップインデックス型MMF(コア半径25 µm、約1450モード)を用いて両者を直接比較した。光源にはCobolt社製の単一周波数レーザ発振器Cobolt Bolero(波長640 nm、最大出力300 mW、線幅約500 kHz)を用い、MMF入力端面を回折限界スポットで走査することで、900分割した入力モードに対する透過行列を測定するためのコヒーレント光源として機能させた。その結果、単一モード投影では、盲点領域を除いたインライン型のパワー比は約61.8 ± 6.5%であり、離軸型の41.4 ± 2.6%より約50%高い値を示した。一方、π形状やMNIST数字といった複雑形状の投影では、ピアソン相関係数が離軸型で0.51、インライン型で0.15となり、離軸型が明確に優位であった。インライン型に参照場の振幅・位相補正を施すと相関係数は0.79まで改善し、性能差の主因が内部参照光の非一様性にあることが裏付けられた。以上より、単一焦点形成にはインライン型が、複雑パターン投影には離軸型が適するという明確な使い分けが示された。
※本要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。
【用語解説】
- 透過行列(Transmission Matrix, TM):散乱媒質や多モードファイバにおいて、すべての入力モードと出力モードを結びつける複素行列。これを測定すれば、ファイバ出力での任意の光場を波面整形により設計できる。
- ピアソン相関係数(PCC):二つの強度分布の類似度を-1から+1の範囲で定量化する統計量。本論文では目標パターンと投影結果の一致度を評価する指標として用いられている。
ホログラフィーに使用された640nmレーザー
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