広帯域フォトニック結晶反射器を集積した炭化ケイ素中の色中心による効率的な読み出し

Krumrein, M., Bopp, J.M., Steidl, T., Knolle, W., Ul-Hassan, J., Vorobyov, V., Schröder, T., Wrachtrup, J. “Waveguide-integrated colour centres in silicon carbide with broadband photonic crystal reflectors for efficient readout.” npj Nanophotonics 3, 35 (2026). https://doi.org/10.1038/s44310-026-00118-4

背景

 炭化ケイ素(SiC)は既存の半導体製造技術と整合する材料でありながら、結晶中に量子技術の光源となる色中心(結晶格子の欠陥に電子が束縛され、特定波長の光を吸収・放出する発光中心)を含むことから、量子情報処理の基盤として近年急速に研究されている。中でもケイ素空孔V1・V2は、電子スピンの位相を長く保つなど優れたスピン・光学特性をもつ。こうした色中心では、電子スピンの状態を一回の測定で判別する単一ショット読み出しが量子計算や量子通信の要素技術として重視される。その実現には放出光子を多く検出することが鍵となり、固浸レンズや微小柱、共振器、導波路への集積が試みられてきた。

従来の問題点

 しかし、SiCではこれらの構造でも光子の収集効率が十分でなく、光遷移を通じた単一ショット読み出しは実証されていなかった。導波路の両端からファイバで光子を集める方式は効率が高いが、低温装置内は空間が限られ二本のファイバを向かい合わせに置けないため、放出光子の約半分が失われる問題があった。

結果

 そこで、本研究では導波路の一端に広帯域のフォトニック結晶反射器(周期構造で特定波長の光を強く反射する鏡)を集積することによって解決した。反射器側へ向かう光子を送り返すことで、反対端の一本のファイバだけで両方向の光子を集められる。設計・作製した三角断面の反射器は広い動作波長域と高い反射率を示し、V2色中心を埋め込んだ素子を極低温で評価して、電子スピンの単一ショット読み出しの実現可能性を示した。Cobolt社製の波長730 nm半導体レーザーは、色中心の初期化と再励起を行う光源として用いられた。

※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。

用語解説】

  • 色中心(カラーセンター):結晶格子の欠陥に電子が捕らえられ、特定波長の光を吸収・放出する発光中心。ダイヤモンド中の窒素空孔などが代表例で、単一光子源や量子ビットとして利用される。
  • 単一ショット読み出し:量子ビットの状態を、多数回の測定の平均ではなく一回の測定で判別する手法。測定に伴う情報損失を抑えられ、量子計算の誤り訂正や量子通信に不可欠とされる。
  • フォトニック結晶:屈折率が光の波長程度の周期で変化する構造。ある波長域の光の伝搬を禁じるバンドギャップが生じ、これを利用して光を強く反射したり狭い領域に閉じ込めたりできる。

色中心の初期化・再励起に使用された730 nmレーザー

730nmレーザー
730nmレーザー