Brazard, J., Adachi, T.B.M., Turner, A., Filella, M. “Determination of titanium speciation in consumer plastics by Raman microspectroscopy.” Microchemical Journal 2025, 208, 112391. https://doi.org/10.1016/j.microc.2024.112391
樹脂製品は有機高分子を主成分とするが、添加剤や加工助剤、意図せず混入した物質など多種多様な化学物質を含んでおり、その量や種類を正確に把握することは、毒性評価、廃棄物管理、再生利用、環境動態の観点から重要である。特に2025年に署名予定の国連世界プラスチック条約の議論においても、樹脂中の化学物質情報の開示が喫緊の課題となっている。なかでも二酸化チタン(TiO₂)は世界で最も多く生産される化学物質の一つで、樹脂用途は塗料に次いで第2位を占める。光散乱効率の高さ、化学的不活性、熱安定性、紫外線吸収能、低コストから、顔料や耐熱性・耐候性・機械強度の向上剤として広く配合される。TiO₂には主にアナターゼとルチルという結晶多形が存在し、両者は毒性や光触媒活性が異なる(一般にアナターゼの方が細胞毒性が高い)ため、全チタン量だけでなく結晶形の同定も求められる。ラマン分光法は高分子や微小樹脂粒子の同定に広く用いられ、TiO₂の多形識別にも適している。
しかし、従来のラマン分光法を実際の樹脂製品に適用する場合、樹脂基材自体のラマン信号や蛍光背景が強く現れて目的のTiO₂信号を覆い隠してしまうという問題がある。また、サンプリング体積が大きいため背景光に対する信号比が低く、低濃度のTiO₂検出が困難であった。蛍光を抑える目的で長波長励起(785、830、1064 nm)が用いられるが、散乱効率の低下や近赤外領域での検出感度の悪さ、さらに蛍光裾が約950 nmまで及ぶことから、必ずしも有効な解決策とはならない。
そこで本研究では、対物レンズで励起光を約1 μmに集光するラマン顕微分光法を用い、消費者向け樹脂23試料と繊維56試料中のTiO₂多形の同定を行った。微小サンプリング体積により信号対背景比が改善され、Ti濃度約450 mg kg⁻¹という低濃度でも多形の判別が可能となった。蛍光が問題となる試料に対しては、Cobolt社製08-NLD 405 nmレーザー発振器(出力0.5 mW)を励起光源として使用し、蛍光発光が450 nm以降から始まる材料については405〜450 nmの蛍光のない波長域でラマン信号を取得した。その結果、ポリオレフィンやポリ塩化ビニルなどの樹脂ではほぼルチルが、繊維ではすべてアナターゼが検出された。これは光散乱性と安定性に優れるルチルが顔料として選好される一方、紡糸口金の摩耗を避けるため繊維では硬度の低いアナターゼが用いられる実情と一致する。
※この要約は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)に基づいています。
ラマン分光に使用された405nmレーザー
その他の論文要約はCobolt論文検索ページをご覧ください。

