参考文献
Blaha, M.E.; Das, A.; Belder, D. Requirements for fast multianalyte detection and characterisation via electrochemical-assisted SERS in a reusable and easily manufactured flow cell. Analytical and Bioanalytical Chemistry, 2025, 417, 1847–1861. https://doi.org/10.1007/s00216-025-05763-w
背景
表面増強ラマン分光法は、金属表面近傍で生じるプラズモン相互作用により、分子振動情報を極めて高感度に取得できる分光分析法であることから、環境分析、医薬品分析、生命科学など幅広い分野で注目されてきた。特に、標識を必要としない非侵襲的分析が可能であり、分子固有の指紋情報に基づく同定と定量が同時に行える点が大きな利点である。
また、電気化学法と組み合わせた電気化学支援SERSは、分子の吸着・脱離や酸化還元状態を外部電位で制御できるため、単なる分光計測にとどまらず、反応過程そのものを分光学的に追跡できる手法として発展してきた。電極表面を用いるこの方法は、分析対象の選択性を高めるだけでなく、信号強度の調整や再現性の向上にも寄与する。
さらに、マイクロ流路と組み合わせたフローセル型SERSは、連続分析やオンライン分析技術との親和性が高く、高速かつ多検体測定を可能にする基盤技術として期待されてきた。これらの従来技術は、SERSの高感度性と電気化学制御の柔軟性を活かし、将来的なルーチン分析への応用可能性を広げてきた点で大きな意義を有する。
従来の問題点
しかし、従来のSERS技術には、基板の再現性や耐久性の問題、ならびに分析後に分子が表面に残留するメモリー効果という課題が存在する。特に、フロー系や連続分析においては、一度吸着した分子が完全に除去されず、次の測定に影響を及ぼすことが問題であった。また、電気化学支援SERSにおいても、過度な電圧印加による溶媒分解や基板腐食、さらには電解質や溶媒条件による信号不安定化が課題となっていた。その結果、複数成分を高速かつ安定して測定することが難しく、実用的なオンライン分析への展開が制限されてきた。
解決方法と結果
そこで、本研究では、銀系SERS基板と白金対極を一体化した再利用可能なマイクロフローセルを開発し、定義された電位制御下で電気化学支援SERSを行うことによって、これらの問題を解決した。一定流量下で三角波あるいは鋸歯状の電位を印加することで、分析対象分子の可逆的な吸着・還元・再酸化を制御し、メモリー効果を低減しつつ、基板の長寿命化を実現した。
支持電解質、濃度、溶媒組成、電位プログラムを体系的に検討した結果、ハロゲンを含まない電解質と極性溶媒の組み合わせにより、安定かつ再現性の高い信号制御が可能であることが示された。さらに、電位波形を最適化することで、数秒オーダーの高速サイクル測定を達成し、多成分を連続的に検出できることが実証された。モデル化合物に加え、医薬品や汚染物質の検出にも成功し、本手法が幅広い分析対象に適用可能であることが明らかとなった。
論文で使用されたCoboltのレーザー
本研究では、SERS励起光源としてCobolt社製レーザーを使用し、高い出力安定性と狭線幅特性を活かして安定したラマン信号取得を実現した。473 nmではCobolt Blues(最大50 mW)、532 nmではCobolt Samba(最大100 mW)を用い、SERS基板の励起および高速スペクトル取得に供した。
その他の論文要約はCobolt論文検索ページをご覧ください。


