母材の抵抗制御による熱電界放出 ―半導体性と金属性の単層カーボンナノチューブ電界放出源の優劣逆転―

Sato, Y., Kuroda, A., Komaguchi, A., Omoto, Y., Shimoi, N., Saitoh, M., Watanabe, M., Fujimoto, Y., Itoh, T., Katsui, H., Goto, T., Motomiya, K., Tohji, K. “Electronic-Thermal Engineering of Semiconducting and Metallic Single-Walled Carbon Nanotube Field Emitters via Matrix-Driven Thermionic Field Emission.” ACS Appl. Nano Mater. 2026. https://doi.org/10.1021/acsanm.6c03918

背景

 単層カーボンナノチューブは、先端が鋭く電気伝導性が高いことから、強い電界によって真空中へ電子を引き出す電界放出の電子源として研究が進められている。筒の巻き方を表すカイラリティによって半導体性と金属性に分かれ、一次元構造に由来するファンホーブ特異点という鋭い状態密度の尖りをもつ。これまでに、膜厚の最適化や外部加熱を併用した熱電界放出など、放出効率と安定性を高める工夫が重ねられてきた。

従来の問題点

 しかし、従来の研究の多くはカイラリティが混在した試料を用いており、動作中に必ず生じる内部ジュール加熱と、カイラリティ固有の電子構造との相互作用が明らかでないという問題点がある。電子の供給経路となる炭化母材や界面の電気抵抗が熱収支に及ぼす影響も整理されておらず、温度上昇によって半導体性が金属性を上回るという優劣の逆転は実証されていなかった。

結果

 そこで、本研究では純度99 %に分離した半導体性と金属性の単層カーボンナノチューブを用い、炭化した高分子母材と界面の電気抵抗を変えた素子を作り分けることによって、解決した。抵抗の高い多孔質の母材で挟んだ素子では、局所的なジュール加熱で半導体性の温度が上がり、状態密度の高い第一伝導帯が占有されて電子の密度が金属性を上回り、立ち上がり電界は 6.38 V/µm と金属性の 6.96 V/µm より低くなった。一方、緻密で低抵抗な母材に混ぜた素子では母材が放熱体として働き、加熱を伴わない冷陰極型の放出で金属性が優れた。Cobolt社製の半導体励起固体レーザー Cobolt Blues(473 nm、連続発振)は、半導体性ナノチューブのラマン分光の励起光源として用いられた。半導体性の種を共鳴的に励起し、欠陥に由来するD帯と黒鉛構造に由来するG帯の強度比を超音波処理の前後で比べ、素子の作製時に欠陥がほとんど導入されていない(0.011→0.012)ことを確認している。

※本記事は、オープンアクセス論文(CC BY 4.0)を、独自の構成で再構成した日本語要約です。

【用語解説】

  • 電界放出:強い電界で固体表面の電位障壁を薄くし、トンネル効果によって電子を真空中へ引き出す現象。加熱を必要としない冷陰極として、電子顕微鏡や表示素子の電子源に用いられる。
  • カイラリティ:黒鉛の一枚膜を筒状に丸めるときの巻き方向と直径を表す指数。同じ炭素の筒でも、この値によって金属性になるか半導体性になるかが決まる。
  • ファンホーブ特異点:一次元の電子系で状態密度が鋭く立ち上がる点。単層カーボンナノチューブの光吸収やラマン散乱の共鳴条件を決める。

ラマン分光に使用された473 nmレーザー

Cobolt 473nmレーザー
473nmレーザー